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 僕はそう言いながら、目を閉じて下唇を弱々しく噛んだ。僕はルナリートが憎い……この体が動くなら、今すぐ殺しに行きたい程だ。生命の始まり……いや全ての『知性』の始まりから、エファロードとエファサタンは自分の世界を創り……そしてそれを守る為だけに命を捧げてきた。なのに、ルナリートは自分の幸せの為に生きている。天界を放棄し、天使という存在までも無くした。しかも……生きている場所はかつての中界……天界と獄界の緩衝帯である筈なのに!だが、何よりも許せないのは……ルナリートが一人ではない事だ。ロードとサタンは、常に一人で生きなければならなかった。神はS.U.Nの力を受けて天界を維持し、天使を創り、それでも余る膨大なエネルギーを処理する為に『封印の間』で……獄王は闇の海の力を受けて獄界を維持し、魔を創り……そして『深獄』を封印する為に『断罪の間』で生涯を終えなければならないのだ!

 

 でも僕は……認めたくはないが、激しい憎しみの中で羨望の心が強くなっていくのを感じていた。決して弱くは無い思い……ルナリートの話を聞く度に心の奥底が蠢く炎のように疼いて仕方が無いのだ。ルナリートはこの星で唯一、僕と対称となる者……ロードの末裔だ。だからこそ、自分と比較する。自由に……幸せに生きるルナリートと、身動き一つ出来ず……今後、獄王としての力を継承し……その責務を負わなければならない自分とを!

 

 そして僕は……『新生・中界計画』が失敗し……それを容認している父であるフェアロットも許せない。中界は天界にも獄界にも属してはいけないはずだ。本来ならば、人間界を中界に戻し……どうしても人間を殺さないのであれば人間を天界に住ませるべきだったのだ。何故、長く続いた三界(天界、中界(人間界)、獄界)を二界(人間界、獄界)に変遷させる事を父は黙って見ていたんだ!?

 

 僕は……体が動かない分、考える時間だけが無限に続いていた。

 そして、僕は言葉を発する痛みも気にせず呟いた。

 

「僕も自由が欲しい……運命などに縛られない生き方をしたい」

 その瞬間、キュアは必死で僕を制止しようとする。

「フィアレス様!無理にお喋りになられるとお体に障ります!」

 でも僕は零れ落ちる言の葉を止める事が出来なかった。

「……僕は……一人は嫌だ。僕は……生涯の全てを獄界の為だけに捧げる事は出来ない。キュアなら解ってくれるよね?」

 僕はゆっくりと首を動かし、彼女の目に視線を合わせた。

「……はい、解ります!フィアレス様が感じてきた孤独……疎外感……少しだけなら……貴方様はいつも皆と同様の扱いを望んでおられました。でも、誰もそう出来なかった。幼馴染の私でさえこんな風に接する事しかできない!」

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