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 その瞬間いつもの激痛が胸から全身に広がった!最初に針で刺されるような痛みが駆け抜けて、次には痺れが訪れる!

「フィアレス様!」

 キュアは叫びながら僕にESSを使用した。これはかつての神のように、父である獄王が闇合成によって創り出す獄界で生きる者のエネルギー源。だが……

「ゲホッ!」

 痛みは少しマシになったが、痺れは取れない。この状態になると、後は耐えて待つしかないのだ。

 数時間……が経過しただろうか?意識が空中に浮いているような感覚の中、ようやく僕の感覚が通常に戻ってきた。

「フィアレス様!……意識がお戻りになられましたね!大丈夫ですか?」

「(……何とか大丈夫だよ。いつも悪いね)」

 僕はぎこちなく微笑んだ。彼女は、10年前に僕が傷付いて獄界に戻った日から誰よりも心配して毎日看病に訪れてくれている。しかし……獄界にいる他の魔は僕に敬意を払うが……心配などはしない。根本的に僕を恐れており、僕の力に対する恐怖で命令に従っているだけだとこの9年で思い知らされた。苦しむ僕に対して、何も言わず恐れずに僕の傍にいたのはキュア一人だけだったからだ。

「いえ、これが私の役目ですからお気になさらないで下さい!」

「(ありがとう……それじゃあ、いつも通り現在の人間界について聞かせてくれ。)」

 僕は毎日こうやって人間界の様子を聞く。ハルメスによって魔が人間界に行く術は閉ざされたが、魔術を用いて人間界を見る事は可能だ。

「わかりました。人間界は……いつもと変わらず平和そのものです。また、技術レベルも向上しており……特に蒸気機関と電気の進歩は目を見張るものがあります。勿論、そのレベルはまだ獄界には及びませんが。しかし、このペースで進歩していけば近い将来獄界に並ぶのは間違いないでしょう」

 キュアは事実を包み隠す事無く話す。僕が嘘や回りくどい事を嫌うのを知っているからだ。

「(なるほど……僕が完治したら、獄界の科学技術も向上させる必要があるな。それで……ルナリートはどうなってる?)」

 僕は一番気がかりな事を訊いた。

「ルナリート・ジ・エファロードは……幸せに暮らしています。妻と娘に囲まれ、また人々に慕われながら……人間界はルナリートの指導と保護の下で安心しながら発展を遂げているようです」

「(そうか)」

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