「その通りだ。だがルナ、お前がトレーニングをするのは最悪の場合を想定してだ」
兄さんがそこで一呼吸置く……大体想像がつくが、そうならない事を願わずにはいられない。
「神に説得するために必要とされるかもしれない力の事でしょう?」
私は目を閉じて訊いた。覚悟は出来ているが……
「そうだな。獄界との和平の為の策を変えさせるんだ。一筋縄ではいかないだろうからな。そして……お前達にそこまでさせる俺の役割を話そう。お前達が天界の相手をするのと同じように……俺は獄界の相手をする。獄界に考えを改めさせる事は不可能だ。計画は、神が提示したものなのだからな……俺は、ルナが通った『獄界への道』を完全に破壊するつもりだ」
ここで兄さんはとんでもない事を言い出した!
「それは不可能です!私は、一度行ってわかっています!あの塔は太古から強力な神術で守られています!それに、3000階にもわたる規模……傷はつけられても破壊は絶対に無理です!」
私は叫んだ!不可能な事は私が一番良く知っているからだ。
「お前達も無茶な事をやるんだ。兄である俺が逃げてどうする?俺の役目は、人間界に現れるだろう魔の大軍と戦い……その通路である塔を破壊する事だ。それでも、俺は全てを防ぎきる事は難しいだろう。俺の守りをすり抜けた魔を人間が倒すんだ。もうそれしかないんだ」
兄さんは本気だった。命を懸ける覚悟だ……まるで、私が獄界に乗り込んだように……
「皇帝……あなたはたった一人で戦うのですか?」
そこでシェルフィアが心配そうに尋ねる。
「いや、俺は戦う場所が違うだけだ。俺達4人……そして、人間達全員で戦うんだ!」
兄さんの言葉に思わず胸が熱くなった。確かに兄さんの言う通りだ。唯一……他に手段があるとすれば、今すぐ天界に行き計画を止めさせる事だが……力が足りなければ、神と話をする事など出来ない。今の私は限界で獄王の力の10%と対等だった程度だ……私の中にあるエファロードとしての記憶の破片が告げている。このままでは、神と話をする事も出来ないと……
「やりましょう!」
私達3人が声を揃えた。70日間兄さんの言う通りにしてみよう!強くなって……天界に行く!
私達は手を重ねた。もう泣いても笑っても70日……全力を尽くすしかない!