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「ルナー!厨房と階段、焼け焦げちゃったわよー!余計な兵が集まってくる前にハルメスさんの元に行きましょー!」

 リバレスが叫んだ。確かにもっともな話だ。先を急ごう!

「……(妖精?)ルナリートさん、皇帝は最上階におられます!でも、階段の先には衛兵がたくさんいますよ!」

 さっき兄さんの元に行ってくれるように頼んだのに、この少女はこの場所から離れなかったみたいだな。全くもって『誰か』にそっくりだ。

「シェルフィアと言ったな。人の心配をする優しい心は素晴らしいが、無謀な事を繰り返しているといつか誰かが悲しむ事になる」

 私はフィーネに言いたかった忠告を少女に言い聞かせた。

「は……はい!気をつけます!」

 その声を背に私は翼を広げた。見上げると、最上階まで吹き抜けの構造になっている。私が帰ってくる事を想定してだろうか?

「さっきの事は忘れません!本当にありがとうございました!」

 私とリバレスが上層へと飛んでいくのを、少女シェルフィアはいつまでも見つめていた。肩まで届く金色の髪を揺らしながら……純粋さと強さを秘めた茶色の大きな瞳でいつまでも、いつまでも。

 それを見ると……不思議な事にフィーネが重なって見えた。
姿は全く違うというのに……

 

〜狂えし歴史の歯車〜

 最上階に到達すると、バルコニーがあったのでそこに私は降り立った。そこにある扉を開けようとした時……

「ルナ!お帰り!」

 扉がバンッと開き、兄さんが駆け寄ってきた。200年前より少しやつれた顔……

「兄さん、長い間お待たせしました!」

 私がそう言うのを待たずに、兄さんは私を痛いぐらいに抱き締めた。

「ああ……大変だったぜ」

 兄さんは泣いていた。私にとっての200年は眠りながら過ぎた刹那の時間。しかし、兄さんにとっては長い長い時間だったのだろう。こうして私達は、しばらく再会の喜びを分かち合っていた。

 

「ところで」

 兄さんは、さっきの魔の騒動に気付いていたようでその事について聞いてきた。私が倒した事、シェルフィアの事などを伝えた。

「そうか……すまなかったな。俺が行こうとした瞬間に魔の気配が消えたから不安だったんだ。それはそうと、シェルフィアはなかなかいい子だっただろう?」

 兄さんは、微笑みながら何故かシェルフィアの事について訊いてきた。理由はわからないが。

「はい、性格がフィーネに似ていましたね。人間の女性はみんなあんな感じなんでしょうか?」

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