「まさか!そんな馬鹿な!」

 自分の目を疑う!空に浮かぶ月が、真紅に塗り替えられていたのだ!

 100年に一度のレッドムーン……。前回は僅か10年前だ。僕が知る限りでは、レッドムーンの周期には例外が無かったのに!

 レッドムーンに照らされる雪は、闇に溶けるような赤を呈している。

 僕がレッドムーンの出現に混乱していると、もっと不可思議な事が起きた!

「夜明けが」

 余りの出来事に言葉が出ない。

 星空とレッドムーンが消え、S.U.N(太陽)が昇り始めたのだ!夜明けは数時間先の筈なのに!

 そして……

 

「ビカッ!」

 

 失明しそうな程強力な光が、魔の中心に現れた!

 さっきから、一体何が起こっているんだ!?魔術?否、月やS.U.Nを操作出来るような術がある筈が無い。

 僕は恐る恐る目を開いた。

 

「うぉぉ!」

 地上の皆が歓喜の声を上げている!何故だ!?魔の大軍が……いない!

 そうか、皆は僕が魔を消したのだと思い込んでいる。違う、僕じゃない!

 ルナリート君、セルファス君、ジュディアさんは別の場所で戦っている。それ以外に、あれだけの魔を瞬時に消滅させられる者がいるのか?

 

 その時だった。

 S.U.Nの光を背に、ゆらゆら浮かぶ者がこちらに向かっている!

 

 光に透けるような白い肌、腰の辺りまで伸びた銀の髪……。そして、全てを見透かした後の如く閉じられた瞳。

 何者だ?

 新雪のような純白のローブを纏った人間……にしてはおかしい。翼も無く、空を歩いている。神術を使っている様子も無い。

 天使でも無い。天使の髪は金色だ。

 何より、この者が人間でも天使でも無いと断言出来るのは、この世のものとは思えない美しさの所為だ。『完全』という言葉は彼女の為にあると言って良いだろう。彼女を見れば、自分達の姿が如何に不完全かを否応なく理解させられる。

 同時に神聖さも兼ね備えていた。近付いてはならない、触れるなど以ての外だ。

 

 だが一つだけ言える。魔を消滅させたのは『彼女』だ。

 彼女を中心に、焼き尽くされた魔の灰が、時間差で地上に落下しているからだ。この者に近かったであろう魔の灰は、既に地上に全て落ちているが、遠い者は未だ落下中だ……

 

 更に彼女は近付く。音も無く……。

 そして、結界に遮られる事も無く僕の目の前、皆の頭上で止まった。

 結界を透過出来るという事は、魔でも無い。一体彼女は?

 

 皆が沈黙し、彼女に視線を送る。無音が続く……

 僕は、不意に急激な胸騒ぎを感じて全速で背後に飛ぶ!その時!?

 

「ビカッ!」

 

 彼女から、真っ白な光が放射されたのだ!

 

 救われぬ、絶望を運ぶ『白』……

 

 

目次 第十節