〜夜明けと共に来たる者〜

 ルナリート君からの『転送』のメッセージを受けた後、僕達はあっという間に戦闘準備を終えた。日頃の訓練の賜物だ。

 今僕は、すぐにでも飛び立てるようにリウォル城の屋上で待機している。冬の夜風が身に染みる。

 此処にはレンダーもいて、僕を見送ろうとしている。

「僕はレンダーとこの街を必ず守って見せるよ」

 隣に居る彼女の肩を抱き寄せた。彼女は今にも涙を流しそうな瞳で僕を見つめる。

「貴方が無事で帰ってきてくれるなら、私は何も要りません。だから」

 僕は、祈るように囁くレンダーの頭をそっと撫でた。彼女の不安を消してあげたい。

 前々から決めていた事を今こそ口にする時だ。

 

「レンダー、この戦いが終わったら結婚しよう。その約束を果たす為、僕は絶対に死なない」

 驚きと喜び、一瞬で彼女の表情に沢山の色が浮かんだ。

「ノレッジさん!勿論、喜んで!」

 僕は彼女を抱き締めてキスをした。

 ずっとこのままでいたいけど、もう時間は無い。出発しなければ。

「ありがとう、レンダー。婚約指輪もちゃんと用意してある。後で渡すよ」

「うんっ……。ありがとう、凄く嬉しい」

 

 僕は飛び立った。高く高く。その時だった!

 

「カッ!」

 

 遥か遠く、聖域の方角で強い光と闇の柱がぶつかるのを視認出来たのだ。これは、ルナリート君が全力を出して戦っている事を意味する。

 それから数秒後、世界が激しく揺れ始めた!それと同時に僕に『転送』で伝達が入る!

「(魔の襲来です!真東です!)」

 街の全方位に配置している見張り台の一つ、東の見張り台からだった!

「(解った、すぐに向かう!)」

 僕は全速力で飛行した。見張り台まで数十秒程度かかったが、魔の攻撃はまだ始まっていない。

「何て数だ!」

 結界の外、数キロメートル先に巨大な黒い塊が見える。一人の魔が人間と同じ大きさだとするならば、この塊には数万の魔が含まれているだろう。リウォルは、人間界の主要都市。狙われて当然と言えば当然だが……

「ん?」

 僕は不思議な違和感を覚えた。魔に向けられた投光機に、突然ひらひら舞う雪が映し出されたからだ。否、違う。この違和感は一体?

 

 

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