〜人間対魔〜 ルナからの連絡後30分以内に、俺達は戦闘準備を終えていた。 「来るなら来い!」 俺は『聖剣』を強く握る。この剣は、かつての『力の司官』であった証。 そう、俺とジュディアはミルドの最前線で戦うのだ。俺は街の中心部の高台に立ち、何処で戦闘が始まってもすぐに駆けつけられるようにしている。また、ジュディアはミルド上空を巡回している。殆どの天使は空を飛べなくなったが、俺とジュディア、ノレッジがまだ飛べるのは有難い事だ。 街全体はルナの『結界』で覆われ、魔の攻撃を受け付けない。だが、一点集中攻撃には脆い。結界の一部が破損するのに、大した時間はかからないだろう。 だから、俺とジュディアは見張っている。結界を守る為には、誰よりも早く敵を見つける事が肝要だからだ。 ウィッシュには、非戦闘員である女、子供達を守る砦の役目を与えている。ミルドの地下に建設した、避難施設の入り口を見張っているのだ。無論、俺達が水際で食い止めるので、其処まで敵が侵入する事はまず無いだろう。だが、俺達の攻撃を掻い潜る事は有り得る。 この半年間、ウィッシュは俺の下で剣の使い方を覚えた。その上達は目を見張るものだった。大丈夫、あいつは俺の息子だ。いざ戦闘になっても、軽く魔を倒してくれるだろう。 その時、ジュディアの意思が転送されてきた! 「(セルファス!東南東から敵の襲来よ!数は……数万!?)」 「(数万!手加減無しだな。それだけの数だと、結界の外から遠隔攻撃だけじゃ足りねぇだろう。俺は結界の外で戦う。援護は頼んだぜ!)」 「(解った。死なないでね!)」 「(大丈夫だ。俺はお前の夫で、ウィッシュの父親だぜ。)」 俺は上空に向かって拳を振り上げると、東南東に飛んだ。街の人間にも指示をする。 「敵は東南東から現れた!東ブロックと、南ブロックの者は俺が合図を送り次第攻撃を行え!」 「了解!」 頼もしい声を背に、俺は結界の外に出た。敵が目前に迫る!星空と雲の全てを覆い隠すかのような軍勢。背筋が寒くなるのと同時に、血が沸き立つのを感じた。 「行くぜ!」 俺は敵へと向かう!ジュディアの保護が俺を包むのを感じた! 「ガハハハハ!元天使風情が、我ら『選ばれし魔』に勝てると思うなよ!」 魔の軍団を率いる、先頭の魔が俺を嘲笑う。他の魔よりも一回り大きく、全身に鎖が格子上に巻かれている。恐らく、リーダーだろう。 「ギャギャギャ!」 リーダーの後に続いて、他の魔も不気味な笑い声を上げた。 だが、関係無い。俺は街へ侵入しようとする者を排除するのみだ! 「貴様……このケージ様を無視するとはいい度胸だ。行け!お前達!」 自己主張の強い魔だ。いいぜ、戦い甲斐があるってものだ!俺は剣を振り上げた。これは戦闘開始の合図! 「ドドドーンッ!」 「ピキピキッ!」 無数の砲撃と共に、ジュディアの神術が魔の大軍に炸裂する! 「ギャァァ!」 爆音の後に墜落していく魔。俺は聖剣をケージに向けた。 「面白い……。俺様の力を思い知るがいい!究極魔術『獄闇』!」 奴の周囲が高密度の暗黒に覆われ、その闇が集約されて俺に襲い来る! 「ルナは……こんな化け物を相手に戦って来たんだな。たった一人の女の為に」 俺はルナの強さを身に染みて理解した。だが、今の俺も愛する者の為に命を懸ける覚悟は出来ている。 「究極神術『雷光』を聖剣に集約し、闇を切り裂く!」 俺は雷光に包まれた剣を獄闇に振り下ろす! 「ピシッ!」 獄闇は呆気なく真っ二つに割れた。だが! 「かかったな!」 さっきの獄闇よりも巨大なものが数十!俺の周囲を取り囲んでいたのだ!さっきのは囮だった!避け切れない! 「うぉぉ!」 俺は精神を集中し、全身を『雷光』で覆った! 「ゴォォ!」 獄闇が俺に一つずつ炸裂しているのが解る!雷光と相殺し、辛うじて俺の体には届いていないがこのままでは殺される! 「(セルファス、痛いかもしれないけどちょっと我慢してね。)」 幻聴か?ジュディアの声が聴こえた。だが、次の瞬間それが幻で無い事を思い知る! 「カッ!」 俺は突如、眩い光に包まれた!痛い!何て痛いんだ!?これは……究極神術『神光』が俺を直撃しているのだ! 「(敵の闇は消えたけど痛かったぜ!)」 「(だから最初に謝ったでしょ。細かい事は気にしないの。)」 「(おう、サンキュー!)」 「今度はこっちが行かせて貰うぜ!」 俺は宙を蹴り、ケージに斬撃を浴びせる! 「ガキキキィーンッ!」 ケージも漆黒の太刀で応戦する! 「ドドドォーンッ!」 「カッ!」 人間とジュディアの攻撃で魔の軍勢は次々に落ちて行く。 俺とケージは互いに切り傷を負いながらも一歩も引きはしない。俺は更に聖剣の柄に力を込める! その時だった。 「カッ!」 聖域の方角で眩い光が走った。その後に、世界が激しく揺れ始めるのを感じる! 「ルナ、決着を付けるつもりだな。俺も負けねぇぜ!」 俺は咆哮と共に、ケージに強烈な一撃をお見舞いしてやった。 | |
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