俺は、『神』を受け継ぐ者……

 

「キィィ……ン!」

 フェアロットの影と俺の剣がぶつかる音が響く……それだけの衝撃で空間が歪む程の力!

 俺と影はその衝撃で互いに宙を100mぐらい飛ばされた!

「サタン……フィーネの魂を返してもらうぞ!」

 俺は、精神力を集中し『炎』を思い描いた。それだけで、半径200mが炎に包まれる!この程度の炎なら『術式』は必要ない。術式は、イメージを具現化させるためのもの。言わば、精神力を神術に変換させるために必要な言葉。神が与えた言葉だからだ。

「ゴォォ!」

 轟音が響く……だが!

「(この程度で我を消せると思うか?)」

 影が俺の背後……300mぐらいの位置で呟く。いや、これは意識の『転送』……さすがは獄王の力の一部……

「ドォォン!」

 次の瞬間、俺と影はぶつかる!150mぐらいの距離なら俺達は瞬時に移動できる!

「滅(ruin)!」

 神のみが使える力……触れる物を『無』に帰す事が出来る空間……音も光も重力も消す!

「闇(dark)!」

 俺が『滅』を放つと同時に、サタンは『闇』を放った!『滅』と『闇』は同じ意味……『無に帰す力』!

 100mは超えるだろうか?巨大な『無』どうしが侵食しあう!

「シュゥゥー!」

 無は空間に浮かぶ闇の海や星々を消し去り消えていった。だが、無は無を消す事が出来ないようだな。

「キンッ!」

「ガキンッ!」

「ピキィィン!」

 翼を持つ俺達は、空間でぶつかり一旦離れ……またぶつかる!

 互いに2億以上の生命力を持つ者……65億年前から続いてきた生命の始まりから続く者……

 幾度争ってきただろう?俺達は戦う事でしか理解出来なかった。

 でも、俺は今までの『神』とは違う。俺はたった一人の人間の為に戦っている。

 フィーネの為に!

「光(sunlight)!」

 神はS.U.Nという光から無限の力を生み出す。『光』は、瞬間的にS.U.Nと同等の光を生み出す術。無論神のみが使えるものだ。

「キィィーン!」

 光と熱が、この『断罪の間』を埋め尽くす!無よりも膨大なエネルギーだ!

「闇海(darksea)!」

 獄王は、闇の海から無限の力を生み出す……影の叫びと共に、光に反する闇の海が空間に溢れ出した!

 光と闇の波がぶつかりあう!これに負けたら、俺は消える!

 光の力と闇の力……最初は拮抗していたが光が押され始めた!

「俺は、大好きなフィーネに再会するんだ!それまでは死ねない!」

 俺はありったけの精神力を光に変える!だが、それでも暗い波に光が追いやられてくる!

「『愛』を命題にしたエファロードの力はそんなものか?それで神を名乗るのは、愚かなり!」

 波が目の前まで迫る!頭が割れる程……いや、命を削って『光』を放っているのに……何故だ!

「ルナリート、お前は覚悟が足りないのだ。我々……神と獄王は、力の全て……命の全てをそれぞれの『界』に捧げて生涯を終える。そこにあるのは、永遠の孤独。その運命の重さに、瞬間的な『愛』如きが勝てるはずがないだろう!」

 フェアロットの声が脳に響く!そうだ、ロードもサタンも『界』の為だけに生きて……それだけの為に死ぬ運命なんだ。だから……シェドロット……今の『神』も俺達の前に姿を現せなかった。俺はそんな使命を背負えるのか?

「ルナー!フィーネに『永遠の心』を誓ったのを思い出してー!」

 俺が獄王の言葉と力の強さに半ば諦めかけた瞬間……リバレスが力強く叫んだ!

 そうだ……フィーネは俺との『永遠の心』と愛する気持ちを信じて死んでいったんだ!

 最後まで笑顔で……最後まで俺を信じて……だから俺はここまで来たんだ。迎えに来たんだ!

 フィーネは言った。『寂しいから……早く迎えに来てくださいね』と!もう、君に辛い思いも痛みもさせはしない!

「俺は負けない。絶対に!今度こそフィーネを守り抜いて見せる!」

 俺は目を見開き、闇の波に向けて手をかざす!

「『光』!」

 膨大なエネルギーを消費する『光』をもう一つ放った!さっきの光は、闇海を押し返すため……そして、今放った光は凝縮して波を貫き……獄王を倒すためのものだ!

「キュイィィーン!」

 光は波を貫いた!そして!

「グォォォ!」

 そんな叫びが聞こえた瞬間……空間を埋め尽くしていた『光』と『闇』は消え去った。

「見事だ」

 俺が最後に聞いた声……それは十字架から降りてきた獄王が、倒れ行く俺を支えながら言ったその言葉だった。

 

 力を使い果たしたな……

 

 

 

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