〜新たなる時へ〜

「目覚めよ……ルナリートよ」

 頭が痛い……あれからどうなったんだ?俺は恐る恐る目を開いた。

「ルナー!ようやく起きたー!」

 元の姿に戻っているリバレスとフェアロット!?俺はすぐさま立ち上がろうとした。が。

「無理をするな……エファロード最終段階に達せずに、あれだけの力を発揮したのだ。我はもう戦う気はない」

 ここは……宮殿の中だろうか?王の間だろう。フェアロットは玉座に座り、苦笑を浮かべている。

「くっ……フィーネは!?」

 俺は何とか起き上がり、獄王にそう訊いた。俺は影を倒したのだろうか?

「ルナリートよ……お前は神としての力を受け継ぎながら……数奇な運命を背負ったものだな。シェドロットが行う『200年後の計画』があるというのに。何故、お前は『愛』を命題に生まれてきたのか?」

 十字架を背に獄王は足を組みながら、俺に問いかけた。

「現在の神……シェドロットの意向、計画は俺にはわかりませんが……俺が『永遠の心』と愛を持つ事は真実です」

 俺とハルメスさんは……『愛』をするように生まれてきた。俺がフィーネを愛するのも必然だったかもしれない。

 しかし、この心……『永遠の心』は俺達が築いたもの……定められた事などではない。それが、俺の真理だ。

「やはり『計画』は知らぬか……エファロードの記憶は継承されるが、計画はお前達二人のエファロードが生まれてから決められた事。その事実をお前達が知るはずはない」

 フェアロットは、計画について意味深な事をほのめかす……何を意味するというのか?

 計画は、シェドロットの最後の責務で……中界侵略を水に流す程重大なもの……

「一体『計画』とは何を指すのですか?それが、俺とフィーネに何らかの影響を及ぼすとでも!?」

 俺はなかなか本音を打ち明けないフェアロットに叫んだ。

「我は……約束どおりフィーネという人間の魂を解放する。だが……お前が『永遠の心』……いや、愛を命題に持ち続けるならば近い未来お前は……シェドロットに会わなければならない」

 フェアロットは魂を解放してくれる!俺はこの瞬間……心に喜びが満ち溢れてくるのを感じた!

 しかし……彼の言葉の意味は深かった。

「俺とフィーネが愛し合うならば……俺は神に会わなければならない。そういう事ですか?」

 俺は喜びを抑えながらも、言葉の意味を理解しようとした。

「そうだ……それだけは忘れるな。……その力と心で真理を貫くのだ。例えその道が、シェドロットと相反する物であったとしても!」

 正直に言うと……獄王の言う事は深すぎて完全には理解出来ない。だが、悪意は感じられない。

 神と獄王は……憎しみあい……戦うだけじゃない。何処か根底で繋がっている気がした。

「わかりました。俺は、自分の信じる道を進みます!だから……フィーネをお願いします!」

 俺は、そう返答し……愛するフィーネの魂を解放してくれるように頼んだ。

「魂を扱うエファロードなら知っているとは思うが……転生すれば、高い確率で記憶も心も消える。お前が……『永遠の心』を信じていても、転生した女はお前を覚えていないだろう。それでもいいのだな?」

 フェアロットは、俺にそう勧告した。それはわかっていた事だが……俺は、フィーネとの約束を信じる。

「はい、俺……いや、『私』はフィーネと約束した心と想いを信じます」

 私の髪は真紅に戻り……翼は消え、目もコバルトブルーに戻った。フィーネの魂を助ける事が出来た。安心したんだ。

「よかろう。たった今、魂は解放された!200年後に、新たな人間として転生する事になるだろう」

 薄桃色のフィーネの魂は、光に包まれて空の彼方へ飛んでいった。向かう先は人間界。

「ありがとうございました!」

 私とリバレスは、フェアロットに深く礼を言った。獄界から、人間界へは『転送』の神術で戻る。私の力はもう制御されていない。

 

 フィーネ、寂しい思いをさせてごめんな……200年後に
君は生まれ変わる。

 でも『永遠の心』は消えはしないから……

 私は会いに行くよ……生まれ変わった君と永遠の幸せを
つかむために……

 だからもう少しだけ、安心して待っていてほしい……

 

§第三章 獄界§

 

 − 完 −

 

 

目次 第四章 第一節