〜受け継がれる力〜

「随分遅かったね」

 内臓のような部屋の真ん中に佇む者……それは、たった一人の魔の少年だった。身長は俺より10cm程低く、小柄で華奢な少年……髪はストレートで耳の辺りまで伸ばし、端正な顔立ちをしている。皮膚が黒くなければ、人間と見分けがつかない。だが……

「お前は……何者だ?」

 俺は、その少年から感じる異様な程の力に後ずさりしながらそう訊いた。

「僕は、フィアレス・ジ・エファサタン。君がエファロードなんでしょう?」

 臆面もなく、その少年は聞いてくる。そして、少年……いやフィアレスは歩み寄ってきた。

「ああ、俺がルナリートだ。獄王に会わせてくれないか?」

 俺は、身構えながらも主旨を伝える。俺の本能が、少年との戦いを拒んでいるからだ。

「お父さんには会えないよ……僕を倒さないとね」

 やはり!この少年は獄王の子供……何という力だ!

「僕はこの前やっと1500歳になって、人間や天使と戦う許可をもらったばかりなんだ。僕は、自分の力を試したくて!獄界の皆じゃあ、僕の相手は務まらないからね。これは、君の剣でしょ?返すよ」

 無邪気に話しながら、フィアレスは俺の剣を返してきた。

「一体どういうつもりだ?」

 返された剣を腰に携える。紛れも無い、オリハルコンの剣……

「だから、僕は君と戦いたいんだよ!僕の生命力は3000万らしいから、同じような力を持つ君を倒すんだ!」

 そう言うと、フィアレスは手をかざし無の空間から禍々しい形をした、一筋の光も反射しない黒の剣を取り出した。

「あー……ゾクゾクするなぁ!僕は君を殺す気で行くから、君も本気で来てね!」

 その言葉の直後だった!フィアレスは一瞬で背後に回りこみ斬りかかって来る!

「クッ!」

 俺はその動きを何とか察知し、剣で弾き返した!

「キンッ!」

 剣がぶつかりあう音が聞こえる頃には、フィアレスはもう俺の正面に移動していた!何という速さ!

「へぇー!今のを防ぐなんて。普通の魔なら、あれで一撃なのにねー。じゃあ、本気で行くよ!」

 こっちも殺す気でいかなければ……確実に殺される!俺は、今ある力を戦いに全て集中させた!

「ガキンッ!」

「キンッ!キンッ!」

 そんな音が絶え間なく続く!

「これでどうだ!『獄闇』!」

 かつて、リウォルタワーのシェイドが用いた究極魔術!それの10倍以上のエネルギーだ!フロアの全てが、闇に染まる!

「『光膜』!」

 俺はその闇に対抗させるために、高濃度の光で体を覆う!

「ドォォーン!」

 闇は、光膜を打ち消す程の威力!俺は、光膜の維持に力を注いだ!

「(ルナー!危ない!)」

 異変に先に気付いたのはリバレス!

「ヒュッ!」

 闇と共に、フィアレスの剣が見えた!

「パァー……ン!」

「ズシャッ!」

 光膜が割れ……俺の胸を縦に裂く刃!俺はそれを必死で避けたが!

「ルナ!大丈夫ー!?」

 鮮血が流れ落ちた……致命傷ではないが傷は深い!

「はぁ……はぁ」

 俺はそれでも何とか立っている。

「エファロードってこの程度?僕を失望させないでくれよ!」

 その言葉と同時に、フィアレスは無数の斬撃を浴びせてくる!

「カキンッ!」

「ブシュッ!」

「ギンッ!」

「ズシャッ!」

 奴はいたぶるように、俺に傷を加え続けた!俺は致命傷になるのを防ぐので精一杯!

「うーん……僕は、愛ってよくわからないけどそんなに大事なの?」

 フィアレスは、余裕で腕組しながら可笑しそうにそう訊いてきた。

「当たり前だ……お前みたいな子供にはわからないさ」

 俺は、奴を睨み返してそう返事した!

「僕を子供扱いするな!……まぁ僕には負けるけど、それだけの力を持ってる君の宝物。僕が貰っちゃおうかなー?」

 フィアレスは、剣先を俺の目の前にちらつかせて挑発してくる。

「フィーネの魂を傷付けるなら……俺はお前を殺すぞ」

 俺も剣をフィアレスの眼前に突き出した。

「こんなに力の差があるのに、どうやって僕を殺すのかなぁ?おもしろいね」

 奴が油断した瞬間だった。俺は、全力を込めてフィアレスの腹部に蹴りを放つ!

「うぐっ!」

 奴は宙を浮き、壁に向かって激突する。と思えたが!

「……ふぅ……今のは効いたよ。油断したらダメだね」

 奴は、闇で翼を作り出しその力で衝突寸前に力を無効化させたのだ!

 俺も光の翼を開く……空中戦で決着をつける!

「『滅炎雨獄』!」

 俺はそう叫び、炎の雨を作り出す!しかし!

「『獄炎』!」

 奴も炎を呼び出し、フロアは赤い炎と黒い炎で満たされる!逃げ道は何処にもない!

「行くぞ!」

 俺は、全速力で滑空し剣に精神を集中させる!

「来い!」

 俺達は、炎に焦がされながらも激しい攻防を続ける!炎のダメージを気にしていたら、剣が防げない!

「『神光』!」

「『死闇』!」

 光と闇の破片が、フロアを埋め尽くす!この世界で、最高レベルの力と力がぶつかりあう!

「(なんて戦いなのー)」

 リバレスが呟く……それはそうだ、普通の者には目で追う事すら出来ない速さと力!

「くっ!エファロード、やるじゃないか!生命力がまた上がってきているよ!」

 楽しそうに、剣での戦闘中にフィアレスは叫ぶ!

「お前こそ!でも、俺はフィーネに約束したんだ!」

 その言葉に乗せた剣での一撃が、防御するフィアレスの体ごと弾き飛ばした!勝機!

「禁断神術……『滅』!」

 今までの『滅』の中で一番巨大な……半径15mぐらいの『虚無』の空間がフィアレスを襲う!

「僕は負けない!」

 避けきれないはずの『滅』を眼前にし……フィアレスの姿は消えた!

「シュゥゥ」

『滅』は、壁を消し……床を消し……闇も光も飲み込んで消えていった。

「はぁ……はぁ……はぁ」

 早い呼吸……俺がそれに気付き振り返ると……右腕から肩にかけてを失ったフィアレスが立っていた!

「危なかったよ……今のは!君の指輪に記憶されていた『転送』の神術で、自分を消さなければ死んでた」

 よく見ると、奴の首から下がっているネックレス……そのチェーンには俺がつけていた天使の指輪があったのだ!

「早くも利用されてるわけだ……だが、もう勝負はあっただろう!」

 俺は満身創痍のフィアレスに叫ぶ。しかし……

「僕は……誇り高き獄王の皇太子!こんな所で逃げるわけにはいかない!」

 流石は獄王の息子……左手一本で剣を取り、俺の方に向けた。だが、その様子も痛々しい……

「ここを通してくれないなら……戦うしかないな」

 俺は、仕方なく再び剣を強く握り締めた。

 

「待つのだ!フィアレスよ!今回は大人しく負けを認めるのだ。お前はここで死んではならぬ!」

 

 獄王の声……子供を心配しない親はいないか……

「はい、お父さん、悔しいけど、今回は負けです。エファロード!今回は僕の負けだけど、君は今からお父さんに殺される!だから……お父さんの跡を継ぐ、僕が最強なんだ!」

 そう捨て台詞を残し、フィアレスは鍵だけ残して消えていった。

「ルナー、次が」

 リバレスが心配そうに囁く……俺だって不安だ。この次に待つのは……獄界の王……最強の力を持つ者……

 

「ルナリート・ジ・エファロードよ……我の元に来るがいい……お前は生まれてきた事すら後悔する事になるがな」

 

 俺は、フィーネとの思い出……愛……永遠の心を抱き締めて最後の螺旋階段を上がって行く……

 ついにここまで来たよ……俺は永遠の心を証明するんだ。

 この戦いが終われば……幸せに生きよう!

 

 

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