〜闇より生まれし王の末裔〜

「ドクン……ドクン」

 目の前にある巨大な扉……漆黒の中に豪華な宝石が散りばめられた扉……それを開こうとする俺の手は震えていた。

 だが……この扉には何だか見覚えがあった。こんな所には一度も来た事がないはずなのに……おかしな感覚だ……

「リバレス、行くぞ!」

 俺は、恐れを振り払って叫んだ。

「オッケーでーす!」

 リバレスは元気よく返事を返す……

「ギイィィ」

 重々しく扉が地面を擦る音が響く……

 

「よくぞここまで辿りついたな……エファロードよ」

 この空間は!?異様だ!壁も床も無い。そして、振り返ると扉すらも消えている!

 上下左右の全てが、暗黒の海……そして、無数の星々……重力も無に帰すような空間……そして、果てしなく広がる空間……

 その中で……獄王……十字架に鎖で繋がれた獄王が、空間の中心に浮いていた。

「一体ここは?」

 俺は、この異様な光景を聞かずにはいられなかった。

「ここは、獄界の中枢、『断罪の間』。全ての界で生まれし、悪魂を滅する場所……エファロードはそんな事も忘れてしまったのか?」

 肩よりも長い髪……やつれ果てた顔……フィアレスが老いたら、こんな顔になるだろうか……それより獄王はまるで、俺がこの場所を知っているのが当然であるかのような口調で話してくる。

「俺は、こんな所に来た事はありません。それよりも、フィーネの魂を返してください!」

 俺は叫んだ!獄王の話……この場所……俺には理解できないはずなんだ!

「エファロードよ……100万年振りの再会だというのに……何も思い出せないのか?それとも、まだ記憶が継承されていないのか?」

 獄王が、真紅の瞳で俺を見つめた!何故だろう。俺は、その顔に懐かしささえ覚えてきた。

「神は天界と中界に魂を生み出す……獄王は、獄界に魂を生み出す……神の役目は、天界の維持とESGの製造……そして、魂の転生。我の役目は悪魂を滅し魂の転生を行う事。そしてもう一つ……強大な力を持ち……我の力でも完全に滅する事の出来ない悪魂を封印する『深獄』の扉を閉ざし続ける事だ」

 獄王は尚も話を続ける。神と獄王は、魂の転生を行う?深獄?獄王はそれを封印している?

「神は……天界で処理できなくなったエネルギーを消費させる為に、中界を占領した!獄界には何の相談も無く……それなのに、我がエファロードであるお前に手を貸す必要があるだろうか?」

 獄王が、そう言って空間の中から水晶で出来た宝石箱のような物を出した。

「フィーネ!」

 宝石箱の中に収められた魂……薄桃色に光るそれは……間違いなくフィーネのものだと確信した!

「やはりわかるようだな。エファロードよ。魂を扱えるのは……ロードとサタンのみ」

 獄王はそう言って、宝石箱を消した。どうすれば、解放されるんだ!?

「俺は、エファロードは……どうすれば?どうすればフィーネを解放してもらえるんですか!?」

 俺は叫ぶ!叫ぶと同時に剣を抜いた。獄王の力は恐ろしい程に伝わってくる。十字架に繋がれながらも、俺は近付く事さえ出来ないだろう。力の桁が違う……

「『エファ』は始まりの者……そんなお前が、たった一人の人間の為に戦うなど愚かだとは思わないのか?確かに、この魂への一切の権限は我にある。だが、我と戦ってまで……この女を取り戻したいのか?」

 獄王の声が空間中に響く……体が後退りする。ここにいるよりは、死んだ方がマシだと思えるような恐怖……

「俺は、フィーネを何よりも愛しています。彼女が戻ってくるのならば、他には何も必要ありません。俺の命さえも……彼女は、他の人間の事を考え……優しさを与え……俺に暖かい心をくれました。そして、俺達は『永遠の心』を誓ったんです。だから……俺は戦います。俺達を引き裂くのならば……天使であろうと魔であろうと……神であろうと、獄王であるあなたであろうと!」

 俺は体の震えを止めてそう言った。これが俺の正直な気持ち。

「己の信ずる道ならば……死すら辞さぬその心……変わらぬな。エファロードは昔からそうだった。よかろう。ロードとサタンは、戦いでしか相手を理解できぬもの……それが、真理。光と闇は混ざり合わぬ……だが、互いに必要なもの」

 その言葉の直後だった。鎖で繋がれた獄王の影から、獄王に似た生命体が生まれた。

「何故、あなたは戦おうとしない!そんな魔術で作った生命体で、俺の相手をしようというのですか!?」

 俺は、十字架から動こうともしない獄王に怒りを覚えた。俺は命懸けでここまで来たというのに!

「我が……この十字架から動けぬ理由……神が……天界の封印の間から動けぬ理由……それすらもわからないルナリート・ジ・エファロードならば我の影すらも倒せはしない!」

 意味深な言葉だ……俺は、その理由を理解しなければならないのか?

「……獄王……あなたの影を倒せば……フィーネを解放してもらいますよ!」

 俺は、剣に極限まで精神力を集中した!

「無駄だ……我の影は、我が力の1割を注いでいる。生命力は『2億3000万』を超えるのだ」

 獄王が静かにそう話した瞬間の出来事だった!

「スッ」

 影が動いた。というよりも、視界から消えた。

「ブシュッ!」

 そんな音がしたので、俺は音のする方を向く!すると……俺の左腕が切り落とされていたのだ!

「うぁぁ!」

 俺は思わず叫んだ!痛みが急激に押し寄せる!大量の出血に意識を失いそうになる!

「ルナー!『治癒』!」

 リバレスが治癒の神術を使うが……全く効果が無い!

「エファロードよ……早く第4段階の力を見せたらどうだ?次は右腕を切り落とす」

 第4……段階だと?第1が銀の髪……第2が真紅の瞳……第3が光の翼……それよりもまだ上があるのか?

「ズシャッ!」

 考える間も無く……影の獄王が俺の右腕を切り取った!剣も虚しく地面に落ちる!殺される。影の獄王は漆黒の剣を構え、表情一つ変えずに獄王の命令を待っている。

「はぁ……はぁ」

 両腕を失った俺に勝ち目はないだろう。大量の出血と痛みで立っているのもやっとだ……

「まだ目覚めぬか?それならば……この魂を『深獄』に堕とすまでだ!」

 宝石箱に収められたフィーネの魂を『深獄』へ堕とすだと!

 

 

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