〜真実の記念碑〜

 私達は階段を足早に登り、塔の二階に到着した。気配を探り、警戒していたがこの階には魔はいないようだ。それを確認した後に、剣を収めて階の様子を見てみる。豪壮な祭壇が部屋の中央にあり、その周囲は浅い堀に囲まれていた。どこからか水が流れ込み、穏やかに流れる音が部屋に響いている。

「なんで、塔にこんな部屋を作るのかしらねー?」

 私と同じ疑問をリバレスは呟く。しかし、一つわかるのは祭壇の上に何かが安置されているという事だ。

「見てみよう」

 私はリバレスと共に、祭壇の階段を登った。無論、罠を警戒しながら……

「オリハルコンで出来た記念碑みたいねー?でも、わたしには読めないわー」

 祭壇の上には、文字が刻まれた記念碑があった。

「古代の文字だな」

 私は、古代語の辞書を読んだ記憶を掘り起こす。私は、一度記憶した事は忘れない。

「……『この塔の完成は……この人間界の創世とともにある』」

 一つを解読した。そして、もう一つを翻訳する。

「……『塔には……いつ如何なる時であろうと人間を滅ぼすことが出来るように……禁じられし兵器を置く』!?」

 この塔は人間がこの世界に創られたと同時に存在し……その人間をいつでも殺せるように兵器を置くだと!?

「どういう事だ!?神が人間を創り……神がその人間を滅ぼす兵器を作ったのか!?」

 理解できなかった。戯れであれ何であれ人間を創った神が……何故わざわざ、それを滅ぼす兵器を作る!?

「もしかしたらー……昔の神様は……人間の存在が魔に憎まれる事を、初めからわかってたんじゃないのー?」

 リバレスは、珍しく冴えた答えを出した。彼女はたまに鋭い考え方を持つ。

「なるほど。そう考えれば辻褄が合うが、それならば初めから人間など創らなければいい事じゃないか?」

 私は、その一つの矛盾が整理出来なかった。神が獄界と対立を避けるなら、人間を創ってそれを破壊する兵器を置く手間をかけるよりも、最初から人間を創らなければいいだけの事なのだ。恐らく……何か考えがあっての事だろう。

「うーん……考えてても始まらないわよー先に進めば答が見えてくるかもしれないしねー」

 首を傾げていたリバレスは、そう言って上の階に続く階段へと飛んでいった。

「待てよ!」

 確かに考えていても始まらない。先に進もう!いつ再発されるかわからない危険な兵器が安置されている!私達は、さらに上の階へと急いだ。長い螺旋階段が続く…… しかし、階段を登り詰めて現れた光景に私はまたも驚いた!今度の部屋は、部屋一面が緑の木々や花に覆われているのだ!……そして、やはりその中央に祭壇があった。

「また記念碑か」

 私は、少し緊張して記念碑を解読する。重大な事が書かれている。私は確信してきた。

『人間という生命そのものに……天界を維持する為の鍵がある』

『神は……神合成という力により……S.U.N(Super ultimate nuclear star)から無限に近い膨大なエネルギーを生み出す』

 ますます混乱してくる!人間が天界の維持の鍵?天界を維持しているのは神の力だろう?しかし……神がS.U.Nから無限に近いエネルギーを創り出すという事は初めて知った!ESGや天界の維持エネルギーを創り出す事は知っていたのだが、そのエネルギー源がS.U.Nだとは誰も知らない事だったのだ。私は、先に進み記念碑を読む事に恐怖すら感じてきた。この先の真実を知ってもいいのかと!?

「ルナー、上にはもっと……知ってはいけない事が書いてるかもしれないわよー」

 リバレスも怯えていた。しかし……私は恐怖よりも真実を知りたいという気持ちが勝った。

 そして、塔の4階に到着した。今度の部屋は……周りの全てが砂漠だった。砂漠に祭壇がある。

『神は……神合成で持て余したエネルギーから……自分自身に似せた天使を創った』

『神は……さらに……ESG(Energy sphere of God)というエネルギー球体を天使に与える事にした』

 ここまで知ってしまったのだ。先にある真実を知る義務がある。記念碑を全て見てから結論を出そう……

 私は砂漠の砂に足を取られながらも階段へと急いだ。この塔は……禁断の兵器と、真実を与える為のものなのだ。

 次に現れた光景は……夜の海……偽物の月と星が部屋を照らしている。海の中に祭壇はあった。

 私は、月明かりを頼りに恐る恐る記念碑を解読する。

『……限りなく続く神合成の果てに……神は天界だけでその膨大なエネルギーを処理することが出来なくなった』

『……神は苦心の果てに……天界の維持の代償として……中界に人間を創り……余剰エネルギーを消費することにした』

 私は、そこまで読んで思わず叫んだ!

「人間を創ったのが……神の戯れだと!?何故……何故天界では嘘ばかり教えるんだ!?」

 歯痒かった。人間は……天界の為に生まれたのだ!それを……私達は見下して……蔑んで!

「ドンッ!」

 思わず記念碑を叩く!自分の考え……いや真実を知らなかった自分に怒りの気持ちすら沸いてきたからだ。

「人間って……天界の為に利用されてたのねー」

 リバレスまで、俯き暗い表情をした。人間に申し訳ない。そう考えているんだろう。この上にも階は続いていそうだった。

「行こう……私達は全てを知らなければならない」

 私は、『ある決意』を胸に更に上の階への階段を踏みしめて行った。

 塔の6階。ここは、ただ真っ白な空間だった。まるで、全ての精神を止まらせるような無の空間だ。そこに、透明の水晶で出来た祭壇がある。

『……人間は天使と同じように魂を与えられる。魂というレベルにおいて両者に優劣はない』

『……ESGが……天使に強大な力を与えているに過ぎない。もし人間にESGを与えれば、拒絶反応と長い年月を経て天使となる』

 新しい真実を知る度に心が揺り動かされる!私が人間と接して感じた事……天使と人間の心に大差は無いと感じ始めていた事……当然じゃないか!?魂……心は同じだったのだから!

 私達は走った!さらに上で待つ真実を知るために!『決意』を強固にするために!

 塔の7階……ここはまるで宇宙を模したかのような空間だった。近くに大きな惑星の模型……暗闇に浮かび上がる無数の煌き……そして、S.U.N。床も暗黒に染まり、まるで本当に宇宙を歩いているかのようだ……その中心に、私達の生きる星……『シェファ』を模した祭壇があった。

 ここには、重要な真実が隠されている。そう確信して、記念碑に目を遣った。

『……人間は……唯、天界の維持の為に……エネルギー塊として排泄される存在に過ぎない』

『……人間界の存在意義……それは天界にとって無くてはならない。言わば《塵処理場》である』

 私は頭を抱えてその場に座り込んだ!

「何て事だ!人間が魔に脅かされているのは私達の所為じゃないか!?辛い世界に生まれて……苦しみながら生きて……悲しみの中で死んでいく!なのに……私達は平和な天界で、被害者である人間を蔑み……感謝することも無く生きてるじゃないか!?」

 私は自分の存在が、人間達の犠牲の上にあると知り、情けない心で満たされた。

「人間って……可哀想な存在だったのねー」

 リバレスが一筋の涙を流す……その表情から、深い悲しみが見える。

「私達は……私達の為だけに生まれて来る人間を顧みる事は無かった。愚かなのは私達天使の方じゃないか!?」

 私は立ち上がった。そして、剣を抜いた。『決意』を『覚悟』にするために!しかし、その言葉を口にする前に上へ続く螺旋階段への扉にオリハルコンのプレートがあるのが見えた。私は無言で走り寄る。

『……この扉の先には禁じられし兵器がある。それは神の意思により……人間界の全てを焼き尽くす事が出来る』

『……この兵器で人間を全滅させて……新しく創ることによって……エネルギーの消費効率は上がる』

 私はもう許せなかった!同じ金属であるオリハルコンの剣に力を込めた!

「パキンッ!」

 プレートと扉……その両方を剣で両断した!

「ふざけるな!余りに身勝手過ぎる!一体私達に何の権利があるんだ!……俺達の為に人間は魔に虐殺されるんだぞ!なぜだ……もっと他に手段があっただろう!?かつての神よ!」

 俺は言葉の途中で、感情が震えて限界を超えた!髪が……銀色に染まっていく。

 フィーネ!君が悲しい目に遭ってきたのは……俺達の所為なんだ!

 すまない。本当にすまない!

 俺の目から涙が流れる。そして……『決意』を口にした!

「リバレス、俺は決めたんだ。俺は人間界にいる200年間……ずっと人間達を守る!せめてもの……償いの為に!」

 俺は剣を前に突き出した。この時……俺の200年の指針は決まったのだ!

「……もうわたしは止めないわー。ルナの頭が銀色になる時って、何か強い思いがある時だけだもんねー……でも、わたしはずっとルナについて行くからよろしくねー!」

 リバレスは物思いな表情から、笑顔に切り替えて俺の肩に乗ってきた。

「お前は頼りにしてるよ!行こう!兵器も魔も止めなければ!」

 リバレスはいつも俺の事をわかってくれる。こいつとは、ずっと一緒だ!

 俺は塔の屋上に続く最後の螺旋階段を全速力で上がっていった。無論、銀の髪のまま……

 

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