〜真紅の瞳と光の翼〜

 屋上への扉……その最後の扉を俺は蹴破った!

「遅かったではないか?」

 塔の屋上が震える程の低い声が響いた。声の主を辿る。すると、月明かりの下に巨大な影が見えた。

「すぐに、その兵器から退け!そうでなければ、俺がお前を倒す!」

 俺は精神力を集中した。瞬時に強力な神術を発動させるためだ!

「……グハハハ……エファロードがその程度の力か!お前の言う通りだな!」

 影がもう一つの影に可笑しそうに話しかける。

「そうでしょうぅぅ!あれは、エファロードというよりも……愚かな堕天使なんですよぉぉ!」

「ハハハハハハハハハハハ!」

 さっき逃がした女と、二人で嘲笑う!何が可笑しい!?

「高等神術『光刃』!」

 俺は先手を打つ為、強力な術を使った!無数の光の剣が空間に現れる!

「パキパキパキーン!」

 光が魔を切り裂く!手応えがあった!しかし!

「何だ……この玩具のような剣は?この程度では、我が僕は倒せても……このシェイド様には傷一つ付けられんぞ!」

 シェイドと名乗る魔……光に照らされて姿が見えた。身長は3mばかり……横幅も2mくらいはある。体は漆黒で、暗闇の中なら影すらも見えない程だ……また、鱗のような固い皮膚で覆われており、至る所から剣のような突起物が出ている。背中には体よりもさらに巨大な羽があるようだ。……それでも、天使や人のような形はしている。だが、それよりも……シェイドには、『光刃』でさえダメージを与えられないのか!俺の今の力は普段の10倍以上はあるはずなのに!

「もう終わりかい?今から、私はシェイド様の中に戻り……お前を惨たらしく殺してやるからねぇ!」

 俺の光刃を逃れた魔の女は、一瞬の内にシェイドの中に溶けていった。その瞬間!

「さぁ……始めようか!エファロードよ!」

 シェイドの力が膨れ上がった!塔の全体が振動する!

「ルナ!何なの!?このエネルギーは!?」

 俺が生きてきた中で……これ程までに凄まじい力を感じたことはない!殺される。俺は息もまともに出来なくなった。

「エファロードよ……我は獄王直属部隊の司令官である!生命力にして、2600000!お前を殺す為に、獄王様直々の命を受けここに現れたのだ!お前がまだ第一段階までしか発現させられない事はわかっている!生命力200000如きで足掻くがいい!」

 シェイドが話した直後!塔の屋上に結界が張られた!これで、逃げる事も隠れることも出来ない!

「俺が……エファロードなのかなんてどうでもいい!俺は、俺は人間の為に戦う事を決めたんだ!邪魔するな!」

 俺は、震える体に鞭を打って剣にありったけの精神力を込めてシェイドに切りかかった!

「ズシャッ!」

 軽い音と共に、シェイドの突起物が一つ弾け飛んだ。俺は心臓を狙ったのだが見当違いの所にしか当たらない!

「その程度の速さで、我を捉えられると思うのが間違いだ!」

 シェイドの姿が消えた!いや……目で追えない!

「(リバレス、階段を伝って逃げろ!)」

 この場にいたら確実にリバレスは死ぬ!俺は必死でリバレスにテレパシーを送った!

「まずは……天翼獣から死ぬがいい!」

 案の定……リバレスが狙われた!俺は全力で地を蹴り、シェイドの前に立ち塞がる!

「他人を気遣うその甘さが命取りだ!」

 奴は俺がリバレスを庇う事を予測して……そうか……あの女が言ったんだな。

「ブシュッッ!」

 何だ?理解する前に腹の辺りで鈍い痛みの感覚が広がった。

「これで天界も攻撃しやすいわけだ!グハハハハハ!」

 天界?攻撃?そんな事はどうでもいい……腹部がシェイドの鋭い腕で抉られた。俺は、死ぬ……

 腹部から大量の血が流れ……口からも大量に血を吐いた。

「ルナをよくもー!」

 リバレスが炎を放つ……氷を放つ……雷を落とす……光で切り裂く……

 彼女は知っている神術の全てをシェイドに放った。しかし……効果があるはずもない。

「小賢しい奴だ!」

 シェイドが指先で軽くリバレスを弾いた。

「キャァァー!」

 彼女は結界にぶつかるまで弾き飛ばされて地面に落ちた……

 大怪我したに違いない。でも、
俺は動けないんだ。

 俺は今まで誰にも負けた事が無かったけど、
上には上がいる。

 さっき……200年間戦う事を決意したばかりなのに……

 ようやく真実を知って……戦う覚悟が出来たのに……

 ごめんな……フィーネ、俺はもう……

 ……意識が……薄れていく……

 

「ルナさんっ!」

 生きる事を諦めかけた時……幻聴が聞こえた。

「まさか……人間が来ようとは!?お前は何者だ!?」

 シェイドが誰かと言いあっている。俺は入らない力を振り絞り……目を開けた……視界がぼやける。

「……ィネ……フィ……ね?」

 血が喉に詰まり声が出ない。しかし……俺の目の前にいるのは……フィーネ!

「そうか……お前がエファロードの女か!エファロードも生きているようだから……目の前で切り刻み殺してやろう!」

 なぜ……なぜこんな所に来た!?いつも後先を考えずに行動する癖……治してくれよ!

 危機にも関わらず、自分から危険に飛び込むフィーネの癖が何故か愛しく思えてきた。

 フィーネのお陰だろうか?何故か……体の底から力が沸いて来た!

「……待て、シェイド!まだ俺達の勝負は終わっていない」

 体は急速に回復しているが、まだ完全ではない。俺は剣を杖にして立ち上がった!

「エファロード!第二段階か!?」

 だろうな。今の俺は天界で神官と戦った時と同じような力を感じる!恐らく目は真紅に染まっている事だろう。

「フィーネ、リバレスを連れて安全な場所へ!」

 俺は溢れるような力を感じていた。今なら、シェイドがフィーネとリバレスへ攻撃しようとしても確実に防げる!

「ルナさんっ!約束を破ってごめんなさい!私はどうしても心配で!」

 と、涙目で走って行きリバレスを抱えた!

「フィーネ!ありがとう!」

 塔の中へと逃げていくフィーネに俺は叫んだ。

「逃がすかわけにはいかん!」

 しかし、シェイドはフィーネを追おうとする!シェイドがフィーネへと動く!

「余所見してると命取りだぞ」

 俺は、俺から注意を逸らしたシェイドの右腕を切り飛ばした!今の俺はさっきまでの俺よりも遥かに強い力を使える!

「小癪な……第二段階でも貴様の生命力は2000000!我の方が上だ!」

 その言葉の直後、激しい攻防戦が始まった!シェイドも魔術で漆黒の剣を出す!

「俺にはフィーネがいる!だから戦えるんだ!」

 俺はシェイドの首を狙う!しかし、キーン!という音と共に防がれた!剣での戦いが数分続いた!

 お互いにスピード、力とも譲らず……紙一重で避けながら相手にかすり傷を追わせた!そして……

「愚かな……これでも喰らえ!究極魔術……『獄闇』!」

 その言葉の直後……暗黒の空間が現れた!それに飲み込まれた塔の一部は色を失い、暗黒に染まった!恐らく、全ての物質を暗黒の物質へ変える術だろう。これに対処するには、同等以上の力がいる!今の俺なら究極以上の神術も扱えるはずだ!

「究極神術……『神光』!」

 塔の周りが、数百mに渡って光の空間に包まれる!闇と光がぶつかりあう!

「ウグググ……エファロードが!」

 シェイドは、暗黒の空間に更にエネルギーを送り込む!

「数字で負けても……戦いは俺の勝ちだ!」

 シェイドが自分の魔術に集中した瞬間に、俺は瞬時に間合いを詰め……全力で肩から腹まで切り裂いた!

「何だとぉぉ!」

 何が起こったかわからないシェイドは驚愕の叫びを上げた!さっきの闇と光は空中で相殺し……砕けた。

 そして……胴体が真っ二つになったシェイドを見て俺は安心した。強過ぎる相手だった。

 

「勝った!」

 俺が安堵の息を漏らした瞬間……

「ルナさーん!」

 塔の入り口から現れたフィーネが俺の胸に飛び込んできた!

「フィーネ、ありがとう!君が来てくれたお陰で何とか魔を倒す事が出来た……それはそうと……リバレスは!?」

 あれだけの攻撃を受けたんだ。無事な筈がない。

「やっほー!」

 変な掛け声と共に、リバレスがフィーネの背中からひょこっと現れた!

「リバレス!無事だったのか!?」

 俺は、嬉しくてフィーネもリバレスもまとめて抱き締めた。みんな無事で良かった。

「わたしは気絶しただけよー……それより、フィーネはよく来れたわねー?」

 リバレスがくるっとフィーネの方を向いた。

「はい、私……ルナさんの事が心配で心配で……馬に乗って追いかけました。それで、塔の入り口は魔物がいっぱいだったので、森で爆薬を爆発させて魔物の気がそっちを向いている瞬間に塔に入ったんですよ!」

 何という無謀さ……私は、その行動力に感心すると同時に呆れてしまった。

「ルナ!髪と目が元に戻ったわよー!」

 私は、フィーネの登場で強くなり……またフィーネの言葉で元に戻る自分が可笑しくて思わず笑顔になった。

「よし!この兵器と塔を封印して帰ろう!」

 私が、シェイドの死骸に背を向けてS.U.Nブラスターの封印装置を起動させた時だった!

 

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