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 講堂に居る者全てが一様に頷く。

「その理想の実現には二つ方法がある。一つは、獄王を含む獄界の者を根絶やしにする事。そして、もう一つが人間、魔にとって互いに理想と言える世界を創る事だ」

 私は水を一口飲み、話を続ける。

「前者はほぼ不可能だろう。仮に可能だとしても、血塗られた歴史の上に築かれる世界が果たして平和だと言えるだろうか?私はそうは思わない。獄界の魔を根絶やしにするような戦いを繰り広げれば、人間も絶滅に瀕する程の犠牲が出るだろう。生き残った人間が、血に染まった世界を見て平和だと言える筈も無いからだ」

 一部の者が考え込む仕草を見せた。恐らく、それしか平和の道は無いと思っていたのだろう。

「後者の、人間と魔にとって理想の世界を創る事。これは非常に困難だが、真の意味で平和と言えるのはこの方法しか無い。率直に言おう。『人間と魔が区別無く共存する世界』だ」

 私がそう言った瞬間、多くの者が立ち上がり首を振った。「無理だ!」という叫びも聞こえる。当然だ、10年前まで人間は魔に虐げられる日常を送っていたのだから。

「もう少し私の話を聞いてくれ。短い視点で考えて、それは不可能だろう。魔を憎む人間が多く居る事は承知している。また、魔も人間を滅ぼす事を最重要と考えているのも事実だ」

 立ち上がった者も座っている者も私を訝しげな目で見ている。現時点では論理に矛盾があるからだ。

「だが、二度と争いが起こらないようにするには、争いの原因を断たねばならない。根本的な原因は、私と獄王フィアレス、人間と魔は相容れない事だ」

 場が静まり返る。その事実は誰もが認めざるを得ない事だからだ。暫くして、私は再び口を開いた。

 

「魂は……この星に生まれ来る魂に優劣は無い。神も獄王も、天使、人間、魔も。星に生きる者同士が争うのは次で最後にしたいんだ!」

 

 一部から拍手が沸いた。だが、大多数は納得しないままだ。理論では理解出来ても、感情がそれを許さないのだろう。

「方針としては、半年後の戦いに必ず勝ち我々の理想をフィアレス、獄界に認めさせる。そして、その理想を実現させる為にこの星に生きる者全てが力を尽くす。その結果、少しずつ真の平和が訪れると思うんだ」

 そこで、一人の人間が呟いた。

「もし負ければ?」

「負けるというのは、私が死ぬという事を意味する。そうなれば、この世界は魔の物になるだろう。しかし、私は負けない。私には、永遠を約束した妻と子がいる。そして、大切な皆がいる。侵略だけを目的に来るフィアレスとは背負うものの大きさが違うからな」

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