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 そう……彼女は病気だ。その病気は生まれついてのもので、原因も不明だ。主に呼吸器系が弱いようで、外の空気をまともに吸う事すらままならない。彼女が生きていられるのは、父親が開発した空気を濾過する装置がこの家全体に張り巡らされているお陰だ。レンダーは、家から殆ど出る事も無く22年の月日を送ってきた。22年という歳月は、天使だった頃からすれば大した長さではないが、人生の4分の一以上と考えると気が遠くなるような長さだ。

「……私は大丈夫です。ご心配をおかけしてすみません。それはそうと、ノレッジ様今日は遅い時間ですし、失礼でなければ家で一緒に夕食はどうでしょうか?」

 呼吸を整えて話す彼女の顔は、家から出ない所為で全く日焼けせず透き通るような白さだ。それが、彼女の儚さと可憐さを余計に醸し出している。それは美しいが、僕が一番望む事は彼女に健康になってもらう事だ。

「いえいえ、僕は城に帰れば夕食がありますよ!一家団欒を邪魔しては悪いです」

 僕がそう言うと……

「ノレッジさん、さっき言われた言葉そっくりそのままお返ししますよ。『俺達はそんな仲じゃないでしょう?』もう10年近くも交流を続けてきたんですからね!ノレッジさんは、この街を治める方なのに偉そうな素振りなど一切見せず……住人や研究員と同じ視点に立ってくれる。いつもお世話になりっぱなしなんですから、たまにはお礼をさせてもらわないと!」

「ノレッジ様、私からもお願いします!ノレッジ様がいてくれると、この子が元気になってくれるんです」

「お母さん!」

 レンダーの白い顔が朱に染まる。それを見ると、僕まで恥ずかしくなった。ここまで言われたら僕は断るわけにはいかないだろう。

「わかりました、今日は御馳走になります。空腹なので沢山食べますよ!」

 僕が笑顔でそう答えると、家族皆が喜びに満ちた顔をした。天界にいた時は、僕一人の存在がこんなにも必要とされるなんて思ってもみなかった。今なら、ルナリート君が人間の為に天界を捨てて戦ったのも素直に納得できる。自分が生きている事が他の人に認められて、必要とされる。また、僕も人を愛する事ができる。これは本当に掛け替えの無い素晴らしい事だって気付いたからだ。

「……ノレッジ様、今日は私の我が儘を聞いて下さって本当にありがとうございました!」

「いえいえ、また来ますよ。時間を作れたら明日も来ますから!」

「本当にありがとうございました!」

 と、家路に就く私に向かって3人はいつまでも手を振っていた。

「(今まで……本当にありがとうございました。ノレッジ様)」

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