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「ノレッジ様!お待ちしていました!見て頂きたいものが!」

 研究施設に入った途端、待ち構えていた研究員に僕は手を引っ張られる。すぐに僕は白衣に着替えて研究室に入った。

「これは……新しい化合物ですね!まだ何に使えるかはわかりませんが、これは凄い発見ですよ!」

 僕は眼鏡を何度もかけ直しながら、研究員と共に顕微鏡の接眼レンズに夢中になった。その後、この化合物に対して施設の研究員全員と白熱した議論を交わし、気付けば時間は夜になっていた。その間、昼食の時間が過ぎていた事は誰も気付かなかったのには驚いた。

「さて、名残惜しいですが今日は帰りますね。皆さん、食事を忘れて倒れないように気を付けてください!」

「わかりました!また来て下さいね!」

 施設を出ると、辺りの家々は夕食の時間になっており窓から零れる温かな光は平和という幸せを象徴しているようだった。

「(帰って片付ける書類は沢山あるけど、その前に)」

 僕は頭の中でそう呟いて、とある場所へ向かう。向かう先は、一軒の家だ。この家には3人の家族、人の良い父母と繊細な娘がいて慎ましやかな生活を送っている。僕がこの家族と知り合ったのは、父親がある研究施設の責任者ですぐに意気投合したからだった。僕がこの街に来て間も無い頃からなので、もう付き合いは10年近くになる。

「今晩は、今日は研究で遅くなりました」

「お待ちしてましたよ、どうぞ上がって下さい!」

 家の中からはとても良い匂いがする。きっと美味しい夕食を作っていたのだろう。僕は昼を食べていなかったので、かなり空腹だった。しかし、城に帰れば夕食がある。それまで我慢する事は造作も無い事だ。

「レンダー!ノレッジ様が来て下さったわよ!」

 レンダーとはこの家族、フィロソフィ家の娘の名前だ。

「ノレッジさん、いつもすみませんね」

 父親が僕に頭を下げた。頭など下げる必要はないのに……

「僕達はそんな仲じゃないでしょう?頭を上げて下さい。僕はここに来たくて来てるんですから!」

 僕がそう言っていると、レンダーが階段を降りてやってきた。母親に似た、黒く美しい長髪、父親に似た優しい茶の目。

 正直に言うが、僕は彼女が好きだ。今まで自分は恋をする事など無いと思っていたが彼女と会って変わった。いや、接する内に序々に変わっていったというのが正しいだろう。

「ノレッジ様!お忙しいのに、私なんかの為に毎日……申し訳……ゴホゴホッ!」

「レンダー!」

 僕はすぐに彼女の元に駆け寄ったが、ちゃんと母親が支えてくれていたので倒れる事はなかった。

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