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「君がどう思っているかは知らないが……私の事を考えているのならばやめた方がいい」

 私は、少し冷たく声を発する。彼女は私の事を想っているかもしれない。そんな気がしたからだ。すると……

「えっ」

 シェルフィアはとても悲しい顔をした。今にも泣き出しそうな目……純粋な目が悲しみに満ちていく……私の予感は当たっていたようだ。

「すまない。私は、200年前に約束した人がいるんだ」

 フィーネを裏切るような事は絶対に出来ない。多少冷たくても……優しくして傷付けるよりはマシだ。

「……そうなんですか……でも、200年も前なら……その人はいないんじゃぁ?」

 もっともな質問だ……しかし、私が200年以上生きている事に疑問は抱いていない。兄さんが長生きなのを知っているからだろうか。それよりも……約束した人がいると言われてまで……まだ私を想うのか?

「そうだな。その人は死んでしまった。でも、また生まれ変わったんだ。そして、生まれ変わったら幸せになる事を約束したんだ」

 不思議と私は多弁だった。さっき会ったばかりのこの少女に対して……それは、フィーネに似ていたからだろうか?

「そうですか……残念です。貴方のような人には二度と会えないと思ったのに」

 すると、シェルフィアの目から一筋の涙が流れた。それが月明かりを反射する。それが、とても切なくて私の心を締め付けた……

「本当にすまない。私なんかの為に」

 私は頭を下げた……私に出来る事は謝る事ぐらいだ。

「いいんですよ。私の方こそごめんなさい……貴方は、皇帝の弟様……そして、世界にとって大切な方……私にとって夢の人」

 そう言うシェルフィアの肩は震えていた。寒いのか泣いているのか……それはわからない。

「ふふっ……こんなに寒かったら……ミルドの丘は雪で真っ白かもしれませんね」

 ミルドの丘!?シェルフィアはミルドの事を知っているのだろうか?

「君の故郷は?」

 私は何故だか気になったので訊いてみた。

「私の……故郷はわかりません。物心つく前に戦場で皇帝様に拾われたんです。でも、絵で見た事のある、真っ白なミルドの丘がとても好きで……戦争が終われば必ず行きたい……いえ、行かなければならない気がするんです」

 シェルフィアは、遠い目をして優しく言葉を返した。まさかとは思うが……

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