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「……本当に、ルナの奴は目覚める気配がないな。やはり獄界での戦いで費やした力は並大抵じゃなかったんだろう。それにしても、俺がフィグリル皇国の皇帝になった事を知れば驚くだろうな」

 フィグリル皇国皇帝のハルメスは、皇座に座り一人呟いた。この100年間、人間界の進歩は目まぐるしい。産業は発達し、街は整備されていく。人口も100年前の数倍に膨れ上がった。それを支えたのが、皇帝ハルメスの力と強力な武器を作り出した人間の科学力だ。人間は、強大化する魔の力に対抗するべく数々の武器を生み出してきた。魔の固い装甲をも破る、爆薬を応用した『銃』や『大砲』。また、火薬の精度や威力も向上しており『爆弾』は生命力数千程度の中級魔にもダメージを与える事が出来る。人間は武器を取り、協力して魔と戦ってきた。

 しかし、持て余す力は自らの崩壊を招く。10年前くらいから、支配欲を持った人間が台頭してきたのだ。そんな人間が『リウォル王国』を作った。リウォル王国は、過剰なまでの武器を作り出し魔と戦うだけでは飽き足らず、人間界を統一国家で支配するために動いているのだ。リウォルはフィグリルを攻撃する。皇帝ハルメスの存在を消す為に……

「人間界の進化の速度は計り知れない。ついには、俺にまで攻撃の矛先が向けられた。でも、人間達はわかっていない。100年後に訪れる惨劇を……こんな事をしている場合じゃないんだ!」

 ハルメスは大理石のテーブルを叩いた。途端にテーブルは粉砕する。勿論、ハルメスが本気を出せばリウォル王国など一夜の内に滅ぼす事が出来る。しかし、ハルメスは人間を愛している。だから、何度もリウォルに和平の交渉をしてきたのだが受け入れられる事は無かった。

 そして、ハルメスは知ってしまった。100年後の計画を……計画は、司官のノレッジにより知らされた。その理由は、計画の為に力を尽くす事を誓えば天界に戻れるという取引を持ちかけられたからだった。ハルメスの力があれば、『新生・中界計画』はスムーズに運ぶ。だが、人間を……いや、ティファニィを愛する彼がそれを受け入れる事は無かった。100年後、全ての人間とハルメス……そしてルナリートが協力しなければ、人間界の未来は闇に閉ざされる事になる。だからこそ、ハルメスは歯痒かった。人間どうしの争いが。そして、それを収められない自分が……もう一つ、頼れる弟が眠ったままになっている事が……

「……ルナ!早く目覚めてくれ!お前の力があれば、戦乱を収めて人間達を一つにまとめる事が出来るんだ」

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