「フィーネ、そんなに慌てなくても大丈夫だから!」
私は右手でフィーネの左手を取った。思えば、これが初めてフィーネと手をつないだ瞬間だった。
「ルナさん!」
フィーネの顔は炎のように紅潮した。思わず私も恥ずかしくなって、手を離そうとする。
「あっ……ダメですよ!せっかくつないでくれたんだから!」
彼女は私の手を逆に強く掴んだ。それを見て、私はフィーネに頷いた。
「(二人とも妬けるわねー!わたしは、しばらくお休みするわー)」
と、リバレスは私達を冷やかした後に、指輪に変化したまま眠ってしまった。器用な奴だ。そこまで気を遣わなくてもいいのに。私とフィーネは手をつなぎ、雑貨店を見て回り、昼食代わりに軽食の露店で買ったクレープなどを食べた。そしてこの街の、名物の劇場で音楽隊の演奏を聴いたりしていると、すっかり日は落ちて夕闇が近付いていた。今日は、一生の内で一番楽しい日だと私は実感していた。……そして、私達の心が通じ合っていくのを感じた。
争いも無く、天使も人間も関係無ければ……私は本気でフィーネを好きになっていたよ。そんな一日だったんだ。
〜混沌の訪れ〜
私達は、楽しい時の余韻に浸るべく『海辺の料理店』を訪れていた。ここは、リウォルで一番美味しい料理店らしい。
「わぁ!美味しそうですねぇ!」
私達は、食卓に並ぶ豪華な海の幸や肉料理を中心に向かい合わせで座っている。
「本当だな。……それより、今日は、楽しかったよ。ありがとう、フィーネ!」
私は少し照れながらそう言った。こんな楽しい一日を貰えた事に私は心から感謝している。
「感謝するのは私の方ですよぉ!私……今日の事は絶対忘れません!大切な大切な思い出です!」
フィーネは、レニーで貰ったネックレスを握り締め今日買った服を俯きながら見た。相変わらず顔は赤い。
「私もだ。今日は1826年間で一番楽しい日だったよ!さぁ、冷えない内に食べよう!」
私達は、幸せな空気に包まれていた。しかし、今日一日の中で一つだけ気になる話があった。それは、ある街人の一人が『リウォルタワー』は魔物の本拠地である可能性が高いという話だ。『リウォルタワー』とは、リウォルの街の北東30kmぐらいの場所に位置する古代の塔らしい。その塔に最近魔物が多く出入りしているらしく、近付いた人間は殺されるらしいのだ。……だがもしも、その塔は人間が生まれるよりも前の古代の塔ならば、恐ろしい事が起きるかもしれない。いや、大丈夫だろう。私は一人で考えていた。