一人の女性が訊いてくる。しかし、フィーネは、焦って何も答えられない。
「この子に合う最高の服を持ってきてくれ」
私は、止め処なく喋り続ける店員にそう言った。
「それで……お客様ご予算は?」
店員の一人が訝しげに私の顔を覗き込んだ。失礼な人間だ。きっと、私達の服がみすぼらしく見えたのだろう。
「これで」
私は、荷物の中から再び『純金の杯』を出した。ミルドの村で、一つを換金した分の銀貨はまだ沢山残っていたのだが、私達を貧しいと思ったような態度が気に入らなかったからだ。
「はい!大変失礼いたしました!ただいま、最高の服をお持ちいたします!」
店員達3人は深く頭を下げて大慌てで服を探しに行った。店の中には無数の服が飾られているが、最高の服とやらは別の所にあるのだろう。
「ルナさんっ!私は普通の服でいいですよぉ!それに、何でそんな高価な品を持ってるんですか!?」
フィーネは慌てながら私の手を握ってブンブン振り回した。よほどの慌てようだ。
「あの杯は、天界では大した価値はないよ。それに、どうせ買うならいい物を買わないとな」
と、私はフィーネに微笑んだ。物で喜んでくれるなら、人間界で最高と呼ばれている物をあげたい。
「(そうそう、フィーネは遠慮し過ぎよー!せっかくの機会なんだから、もっとルナに甘えないとー!)」
リバレスが、私に気付かれないようにテレパシーを送っていた。
「はい」
またも顔を赤く染めて、俯いてしまった。この時のフィーネはいつもより小さく見える。普段でも、私より20cm程小さいのだが。しばらくして、大慌ての店員3人が帰ってきた。その手には持ち切れないぐらいの服を持っている。
「はぁ……はぁ……これでどうですか?」
30着ぐらいの服があった。シルクのワンピースや白い毛皮のコート、それに鮮やかなドレスなど……人間界にしては豪華な品揃えだ。
「フィーネ、気に入ったら全部買っていいぞ」
私はフィーネの背中を軽く叩いた。遠慮気味に俯きながらも、見た事もない綺麗な服を見るフィーネの目は輝いていた。
「えーっと……どうしよう……私、こんな服見るのも触るのも初めてなんですよぉ」
彼女は、恐る恐るシルクのドレスに触れた。この様子じゃ、埒があかないな。
「フィーネ、試着すればいいよ。いいだろ?」
私は、店員の目を見た。
「はい!どうぞ、好きな物を着てください!」
3人は、背筋をピンッと伸ばしそう答えた。初めの様子と全く違うな。