【第四節 小さな冒険】

 

 夏の力強い陽射しを受け、リルフィは今日もフィグリル中央学校へ向かう。彼女は朝から上機嫌だ。何故なら、今日は月に一度の交流会(授業)が行われる日だからだ。この日は、フィグリルの学生だけでなく世界中から数多くの同年代の友達が学校に集まる。リルフィは、誰にでも優しく接する事が出来るので友達が多い。その性格は、母であるシェルフィアと父であるルナリートからの遺伝による所が大きいが、リルフィ自身の魂が力強く純粋である事が一番の要因である。魂は……生きている者の肉体が朽ちても生き続け、記憶を失い新たな生命に宿る。それが転生であり、神や獄王を除いては殆どの場合例外は無い。普通の人間だったフィーネが、シェルフィアとして生まれ変わり記憶まで持っている事は歴史上類を見ない程の奇蹟なのだ。だから、リルフィも前世や太古の記憶は無い。だが、一つだけ言えるのはリルフィの魂は遥か昔より本質は変わっていないという事だ。

「今日も暑いなぁ……でも、今日は月に一度しか会えない友達も学校に来るから嬉しいなっ!」

 リルフィは嬉しさの余り、学校へ向かう機関車の中で微笑みながら一人でそう言った。周りに座っていた人々もその様子を見て和んだ表情を返した。この時間に機関車に乗っているのは、学校へ向かう学生か仕事へ向かう大人達だ。大人にとって子供達は宝だ。子供達は、いずれ自分達に変わり世界を支えるようになる。また、その成長を見守る事は楽しいものだ。そして、大人は子供の姿に自分自身の過去を思い浮かべてしまう。子供達が無邪気に明るく生きているという事を見られるのは、嬉しい事だ。

 やがて、機関車はフィグリル中央学校に到着した。リルフィは、いつもより少し早めに校舎へと歩む。

「リルフィ!」

 聞き慣れた元気な声、呼ばれたリルフィはすぐに振り向いた。

「おはよう、ウィッシュ!」

 彼女もまた元気一杯の声で返事をする。相手は8歳のリルフィの一つ年下で幼馴染、ウィッシュだった。

「今日は父さんと母さんが忙しかったから、聖石を使ってぼく一人で来たんだ!」

「えっ!?ウィッシュ一人で来たの?」

「うん。ぼくはどうしても交流会に来たかったから!」

 ウィッシュは嬉しそうに笑った。彼は7歳なのに、交流会に参加する為に『転送』の神術が込められた聖石を使って一人でやって来た。セルファスの子供らしく、なかなか度胸のある行動だ。

「ウィッシュ、凄いね!今日は、わたしのパパとママも参観には来ないけど学校頑張ろう!」

「うんっ!」

 そう言って二人は駆け出した。リルフィの長い真紅の髪が揺れる。その隣で、金の短い髪と青い目を携えたウィッシュが走る。二人は、物心がつかない時から一緒だった。ウィッシュは父母と共にミルドに住んでいるが、父母がフィグリルを訪れる度に一緒についてきたからだ。

 この日学校は9時〜15時までで、色々な授業が行われた。数学や言語、歴史や料理、合同体育などだ。どの授業も今後の生活に役立つようなものばかりで、かつてルナリート達天使が天界で教えられたものとは全く異なるものだった。

 

〜冒険へ〜

「リルフィちゃん、バイバーイ!」

「うん、またねー!」

「リルフィちゃん、今度また遊ぼうね!」

「うん、約束だよ!」

 昼の3時。学校の授業が終わり、リルフィは多くの友達に囲まれていた。毎日学校で会う友人に加えて、今日は月に一度だけ遥々中央学校まで訪れる友人もいる。リルフィは、友達が好きだし大切にする。だから、必然的に友人の数が増えたのだ。

「リルフィちゃん、今度会えるのは来月だけど元気でね!」

「ありがとう、元気でね!」

 こうして皆が去った後、ウィッシュも近付いてきた。

「リルフィ、今から遊ぼうよ!」

 ウィッシュは嬉しそうだ。リルフィは殆ど一月に一度しか会えない幼馴染。それ以上に、彼は彼女に惹かれている。物心付く前から一緒にいた女の子。一つ年上のお姉さん。そして何より、リルフィの優しさや強さに接して好意を持たない筈が無かった。

「うん、いいよ!でも5時までには帰らないとダメだからね」

 リルフィは笑顔でそう答えた。ウィッシュは幼い頃からずっと仲の良い幼馴染。大切な友達の中でも、付き合いが長い分ウィッシュは特に大切だ。

「わーい!ちゃんと5時までには帰るようにするよ」

「何して遊ぶの?」

「楽しい事だよ、リルフィちょっとだけ目を閉じて」

 そう言うと、彼女はすぐに目を閉じた。リルフィはまだ人を疑う事を知らない。というより、騙す人間がいないから疑う必要もないのだ。

「レニーの森へ!」

 ウィッシュは、目を瞑ったリルフィの手を右手で握り左手には聖石を持ってそう叫んだ!途端に二人の体はフィグリルから消え、神術の膜に包まれてレニーの森へと到着した。

 

 

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