【第九節 この星に生まれて】

 

「……ナ……ルナ」

 遠くの方で声が聞こえた。私はゆっくりと目を開く……すると!

「良かった!気付きましたね!」

 シェルフィア、だけじゃない。リバレス、セルファス、ノレッジ、ジュディアが私を見ている!

「そうか……皆で私を治癒してくれたんだな」

 私は皆の目を見た。すると、全員が頷く。

「ルナ、お前は生命力に溢れてるから完全に治癒させるには全員の力が必要だったんだぜ!」

 そこでセルファスが私の肩を叩く……私は嬉しかった。さっきまで敵だった3人が私の味方になってくれた事が……

「すまないな……セルファス、ノレッジ、そしてジュディア。私達は、今から神の下へ向かう」

 私は立ち上がった。体は完治している。私は3人に微笑んだ。

「ルナリート君……僕達は、この先で何が起ころうとも君の選択に従う事にしたんです。だって、君はエファロード……そして友達だから!」

 ノレッジは強い決意を込めた目で私にそう言った。

「ありがとう……何があっても、お前達の事は信じるよ」

 私は手を差し伸べる。その手を3人は固く握った。

「ルナ、本当にごめんなさいね。私が昔あなたにした事……苦しみを負わせた分……それ以上にあなた達を助けるから!」

 ジュディアはまだ瞳に涙を浮かべてそう言った。彼女は……私の最初の友人……憎しみもあったけど、今はまた友と呼べるだろう。だが……

「あぁ。この戦いが終われば……皆元通りの友達だ。行ってくる!」

 友情を再開させるのは、戦いが終わってからだ。私とシェルフィアとリバレスは、上層に続く階段へと歩を進めた。

「良かったわねー!」

 リバレスが嬉しそうに私の周りを飛び回る。そうだ……計画を中止させれば……無益な争いを終わらせれば、輝かしい未来が待っている!

 私達は、階段を1段飛ばしで駆け上がった!

 

「ここは?」

 階段を登りきって見た風景、それにシェルフィアは思わず声を漏らした。

「すごい空間ねー!」

 リバレスも思わず大声を出す。それもその筈だ……これは建物の中じゃない!?

「これがエファロードの力だ」

 さっきハーツと戦ったフロア、つまり第一階層は何の変哲もない。只のオリハルコンと大理石で出来たフロア。

 しかし、この第二階層は一面が『森』だった。『森』の中では小鳥が囀り、小川すら流れている。

「どうやって先に進めばいいんですか?」

 シェルフィアが不思議そうに首を傾げる。私の中にはその答えがあった。

「石版を探すんだ。それを読めば自動的に上層に転送されるはずだ」

 私はそう言った。石版の内容は知らない。いや、覚えていないと言った方が正しいか……

「それじゃーそれを探しましょー!」

 リバレスが元気良く手を上げてそう言った。これだけの規模……空から探さなければ無理だろう。

「どこまで見ても森だけだな」

 空から森を見下ろすが、生い茂る木々以外には何も見えない。遥か遠く数十km先すらも同じ風景だった。

「ルナさん、この森は変ですよ。きっと、本物の森じゃありません」

 そこでシェルフィアがそんな一言を呟いた。鋭い勘だ!

「シェルフィア、いい勘だ。私の中の記憶がまた少し蘇ったよ……この森は神術で作られた幻影……それを消さなくては先は見えない!」

 私は精神力を集中した。……禁断神術を発動させるために!

「『滅』!」

 直径50m程の無の空間を放出する!これで、幻影そのものが消滅するはずだ!

「シュウゥゥ!」

 森が消えていく!すると、大理石の床と共に石版が現れた!この森は……幻影をループさせる事で大きく見せていたに過ぎなかったのだ。実際の規模は数百m四方しかない。

「流石ルナー!とんでもない力ねー!」

 私の神術の規模を見て、リバレスが驚き褒める。恐ろしいと言われないだけ有難い。

「さぁ、石版を読もうか」

 地面に降りたち私は石版に目を通した。この文字は……最古の文字だ。エファロード以外に読める者はいないだろう。

 

『……この星の名は『シェファ』……『ロード』と『サタン』によって統治される。『ロード』は、S.U.Nの光から……『サタン』は海の中にある闇物質からエネルギーを合成する。両者の合成するエネルギーは膨大で……『魂』や『ESG』などを作る事によって消費しなければならない。そうしなければ、『ロード』も『サタン』も過剰なエネルギー負荷に耐え切れずに存在が消える』

 

 この石版に書いてあった事は既に知っていた事だが、この先に書かれてある事は……何かとてつもない事のような気がした。

「あっ!」

 リバレスが異変を感じて叫んだ瞬間、私達は上層へと転送させられた!

「この空間もまた……凝った作りだな」

 一寸先も見えぬ程の闇……その中で、レッドムーンだけが地上を照らしていたのだ。

「本当に……何も見えないですね」

 シェルフィアの声が背後から聞こえる。その姿すらも見えない程の闇なのだ。

「ルナー、ここから先に進むには!?」

 肩に乗っているリバレスの姿も見えない。私は、先へ進む手段を考える。

「わからないが、とりあえず『光』を出そう」

 私は意識を集中し、空間に『神光』を放った!だが!?

「微かに明るくなっただけねー」

 本来ならば眩い光で何も見えなくなる程の光なのだが、ここではマッチ一本程度の明るさにしかならなかった。

「ここから先には……エファロードしか進めないとしたら……こうするしかないだろう!」

 私はシェルフィア、リバレスから距離を置き全ての力を解放した!

「……始まりの神術……『光』!」

 それが発動した瞬間!闇は消え去り、真っ白な空間の中に石版が現れた!

「あっ!また文字が書かれてますよ!」

 シェルフィアが嬉しそうに石版に駆け寄る。私もすぐに後を追った。

 

『……『ロード』、『サタン』の寿命は個人差があるが33万年以上であり……『死』の直前に『子』を残す……『子』は、『エファロード』、『エファサタン』の名を襲名する。『子』は『親』の記憶、力のほぼ全てを模写されて生まれる。『子』は序々に力を解放していく……その力の覚醒は……5段階存在する。最終段階に到達した時……全てが見える』

 

 そんな……私の力は更にもう1段階覚醒するというのか?そして、その時に全てが見える!?

 私は得体の知れない恐怖を覚えた。一体私の存在は何だと言うのだ!?

 そんな事をゆっくり考える間も無く、私達は更に上層へと転送された!

「眩しい!」

 このフロアは光だけで構成されている。真っ白で……自分の体すら見えない!

「ここは……私の出番ですね」

 シェルフィアの声が聞こえる。一体どうするつもりだ!?

「おい……まさか!」

 シェルフィアに力が集る。これは、魔術のエネルギー!?

「ルナさんっ!リバレスさん!力を貸してください!私一人では発動させられませんっ!」

 私とリバレスは、シェルフィアの手を握り……精神エネルギーを注ぎこんだ!

「……終わりの魔術……『闇海』!」

 シェルフィアの体が震える!これは獄王しか使えない魔術!いくらシェルフィアでも使えるはずがない!

「ドクンッ」

 私の心臓が大きく鳴り響く……その瞬間……私の精神エネルギーが大きく吸い取られる!

「キャァァー!」

 リバレスが叫ぶ!きっと私と同じように力を吸い取られたのだろう。彼女はその場に倒れた!

「シェルフィア!やめろ!君が死んでしまう!」

 私はエネルギーを送りながらも叫んだ!

「……ダメです!こうしないと先に進めないでしょう!?私を信じて下さい!」

 シェルフィアが叫ぶ!彼女の力が尽きかけたその時!

「ゴォォ!」

 小規模だが……確かに『闇海』が発動した!辺りの光が消えていく!

「シェルフィア!」

 今にも倒れようとするシェルフィアを、私はしっかりと抱き止めた!何て事を!

「ほら……道が出来ましたよ」

 シェルフィアはぐったりと目を閉じる。精神エネルギーを使い果たしたのだ。

「……無茶な事ばっかりするなよ!」

 私はシェルフィアを思う余りに……涙を流した。一歩間違えれば死んでいた所だ!

「ふふ……大丈夫ですよ。でも、リバレスさんと一緒に少し休みますね」

 シェルフィアはそう言って私の腕の中で眠りに落ちた……とても安心したような笑顔と共に……

「シェルフィア、リバレス」

 私は、荷物袋の中から毛布を出して二人を優しく寝かしつけた……二人は当分目覚めないだろうな……

 恐らく……このフロアの石版を読めば……次は神の場所だろう。そんな直感があった。何故なら、さっきはエファロードのみが……そしてここではエファサタンのみが使える術を使わなければならなかったからだ。これ程厳重な守り……恐らく、神に会う為には獄王の力も必要だったのだろう。偶然シェルフィアが獄王の力の一部を使う事が出来たから先へ進む事が出来るが……贖罪の塔に入ってからここまでほとんど休む事もなく突き進んできた。だが……ここで私は兄さんの事が心配になった。

 

 その頃……

 

 ハルメスは、ある遺跡の階段を下っていた。全身……特に胸の出血で足が言う事を聞かない。

「……はぁ……はぁ……ルナ達はうまくやっているかな?……俺はもう少し頑張るぜ」

 彼の歩いた後には多量の血痕が残っている。出血量はとうに致死量を超えていた。唯……彼を動かしていたのは……強い心……心臓も損傷している。体内にうまく血液が運搬されない。それでも彼は歩いていた。

「……ティファニィ……あと少しだ」

 彼は闇の底へ向かう……ティファニィへの愛と……ルナリート達……そして人間への思いだけが彼を前へと進めているのだ。

 

 

 

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