「ファング、全く……お前は役に立たないね」

 

 そんな声が魔の後ろから響いた。一体!?

「フィアレス様!?どうかお許しを?……グァァアアァァ!」

 この魔……ファングは喋り終わる間もなく漆黒の剣で体を貫かれた!そう……この魔はかつて、ルナリート達を窮地に追い込んだ獄王の側近!そして……フィアレス……この男は!?

「失礼したね。ハルメス・ジ・エファロード。この役立たずは、ファング……あっ、もう死んじゃったけどね。僕はフィアレス・ジ・エファサタン。僕はルナリートを殺しにきたんだけど、もう一人のエファロードがここにいるなんてね。好都合だよ」

 ハルメスは一歩後退りした。面と向かった瞬間、フィアレスが獄王の子である事……そしてその力の強大さに気付いたからだ!

「ここに現れた理由は聞くまい……だがまさか、サタンが直接人間界に現れるとは思わなかったぜ」

 フィアレスの力はルナリートと戦った時より遥かに増していた。その生命力は数億を超えるだろう。

「僕は早くルナリートに会いたいんだよ。でも君とここで会ったのも何かの縁。君から先に殺してあげるよ!」

 フィアレスがそう言った刹那!斬撃がハルメスの光膜を襲う!速く……重い一撃!

「パァァー……ン!」

 光膜は瞬時に粉々に砕け散った!更に高速の剣がハルメスを捉える!

「キィィー……ッン!」

 体を直撃する寸前、ハルメスは何とかそれを防いだ!だが、その重圧で手が痺れる!

「容赦の無い剣だ……だが、俺がお前に負ければ人間界は滅びるだろう。俺は命を懸けてお前を倒す!」

 力を温存出来る相手ではない。ハルメスはエファロード第4段階まで力を解放した!

 第4段階は『エファロードの記憶の継承』……この段階は、ハルメスが使える最終段階……生命力を著しく消耗する!

「そう来なくちゃね!それでこそ殺し甲斐があるよ!」

 フィアレスも、エファサタンとしての力のほとんどを継承している。

 そう、ロードとサタンの因縁の戦いがここで再び始まったのだ!

「禁断神術『滅』!」

「ふーん……『滅』なら僕も使えるもんね」

 その瞬間、『滅』と『滅』がぶつかりあう!何故フィアレスが禁断神術を使えるのか!?

「なぜ神術を!?」

 ハルメスが神術に力を込めながらも叫ぶ!

「君の馬鹿な弟の贈り物さ!ほら、その程度なの!?」

 そうだ……ルナリートが獄界に渡した『天使の指輪』……それが利用されているのだ!だが、それより!

「うぉぉ!」

 フィアレスの『滅』の勢いにハルメスが押されている!ハルメスは限界まで力を注ぎこんだ!

「くっ……やるね……でも無駄だよ!」

 急にフィアレスの『滅』の勢いが弱まる!一体!?

「ここだよ!」

 フィアレスは『転送』を使い、ハルメスの真横まで移動していたのだ!

「ブシュッ!」

 鋭い斬撃が……ハルメスの胴を両断する!?と思えた瞬間!

「転送も使えるみたいだな。ぐっ」

 ハルメスも転送を使い、何とか剣が致命傷になる前に逃れていたのだ!

「シュゥゥー!」

 脇腹を押さえ血を流すハルメスを余所に、行き場を失った『滅』が半径数十mを抉り取って消滅した!

「よく避けたね……絶対に死んだと思ったんだけどね」

 フィアレスは余裕そうに笑みさえ浮かべる。ハルメスの傷は……深い……骨も数本切断されているだろう。

「……今まで生きてきて……お前のような強敵に会ったのは初めてだ。俺は獄界に行って無事に帰ってきたルナを誇りに思うぜ」

 ハルメスは、自分がここで死ぬかもしれないと感じ始めていた。だが、彼には守るべきものがある。大切な弟……その恋人……そして……大好きな人間達……それを守る為には、今ここで死ぬわけにはいかない!

「ティファニィ……これが俺達の最後の戦いだ。行こう!」

 ハルメスがそう言った瞬間……空間に光り輝く剣が現れた!

「へぇ……それでどうするつもりなの?」

 フィアレスは余裕でハルメスのする事を見ている。いつでも殺せると思っているからだ。

「『神剣ハルメス』……俺の最愛の女性が変化した姿だ」

 ハルメスはここで神剣を呼び出したのだ。神剣は魂が剣に変化したもの……ティファニィがハルメスの為に変化したのだ!

「そんな剣で僕を倒せると思ってるの?もう茶番は終わりだ……死んでしまえ!」

 フィアレスが猛スピードで襲い来る!目にも見えないスピードで剣が振り下ろされる!

「ザシュッ!」

 傷を負ったのは……フィアレスの方だった!

「……ぐっ……そんな馬鹿な!?剣が勝手に動くなんて!?」

 フィアレスは予想出来ない攻撃に戸惑っている!

「この剣は、俺とティファニィの意思で動く。直接腕を振る必要も無くな……ここからが本当の戦いだぜ!」

 ハルメスはフィアレスを睨みつける。傷の程度は両者とも大差無い。激しい戦闘が始まった!

「キィィ!」

「ガキィーン!」

「ブシュッ!」

「ゴォォ!」

「ドォォーン!」

 両者共に体をエネルギー膜で守り、剣でぶつかりあい……互いに剣の傷が増えていく!全身が切り刻まれていくのだ!

 炎……氷……光……闇……神術と魔術が激しくぶつかりあう!

「はぁはぁ……そろそろ人間界を諦めてくれないか?」

 脇腹を抉られ……肩を斬られ……太腿から大量の血を流すハルメスがフィアレスを睨みつけながら言った!

「ハァ……ハァ……君こそ早く死んで僕を通してくれよ!」

 頬を刺され……左腕を折られ……炎で片目を焼かれたフィアレスが叫ぶ!

 二人はもう立っているのもやっとだ……次が最後の攻撃になる。二人はそれを理解していた!

「……もう終わりにしようぜ!……始まりの神術『光(sunlight)』!」

 ハルメスは、全ての神術の中で『始まりである神術』を放つ!エファロードにのみ許された最強の神術!

「……そうだね……これで終わりだ!……終わりの魔術『闇海(darksea)』!」

『光』とは対極の魔術!光と闇の波動が空間の全てを埋め尽くす!あらゆるものが存在し得ない次元だ!

「決着をつけようではないか……サタンよ!」

「ロードとサタン……消えるのはロードだ!」

 二人の中のエファロードとエファサタンとしての記憶がそう叫ばせた!光と闇の波動がさらに勢いを増す!その力で、3000階もある塔が激しく揺れる!そして……塔の下層100階程が既に消滅した!さらに、ここは地下……このエネルギーのぶつかりあいで地下には巨大な空洞が出来ると共に溶岩が噴き出した!

「ティファニィ!俺に力をぉぉ!」

「僕はサタンの末裔!負けるはずがないぃぃ!」

 二人とも既に限界を超えていた!傷口から血が飛び出し……服は焼け……翼も皮膚も消失しようとしていた!そして次の瞬間!

 

「ザクッ!」

 

 剣が胸を貫く音が響いた!二人の胸を深く深く!両者は同時に『転送』を使い、正真正銘最後の一撃を放ったのだ!

「ブシュゥゥ」

 溶岩だけが溢れる地の底で……二人は胸から血を噴き出した!

「うぐぁぁ……俺の……勝ちだな。これで魔は人間界に……来れまい」

 剣を支えに……死にも等しい痛みを堪えながら……ハルメスはフィアレスにそう聞かせた……

「ウグゥゥ……無駄さ……この塔が一部でも残っている限り……転送装置は3日もあれば修復する。束の間の平和を噛み締めるがいいさ……僕の勝ちだ」

 獄界の王子フィアレスは動けなかった。流石に胸を貫かれたら……息をするだけでやっとだ……

「3日か……その間に……俺がこの塔を消してやるぜ」

 ハルメスも息をするのが精一杯だ……この傷は……エファロードでも癒えないだろう。

「ふん……戯言を……君の人生はもうすぐ終わりだ……未来の心配などいらないだろ?今度は……必ず……ルナリートを……殺してやる」

 フィアレスは強気にもそう言った。死ぬ前の強がりなのかもしれないが……それは誰にもわからない。

「……俺はまだ死なない。だがせめてお前は獄界で死ぬがいい」

 ハルメスは身動き一つ出来ずにそう言った。そして……フィアレスを獄界に『強制転送』したのだ。

「……ルナ、何とか追い払う事が出来たぜ……後は」

 ハルメスは……血を吐き……足を引きずり……歯を食い縛って……自分自身を転送した。

 

 自分が生まれた意味を完遂させる為に……

 

 

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