〜信じる心〜

「こ……ここは!?」

 私達が転送してきた場所……そこは、全く見覚えの無い場所だった。

「変わってしまった。何もかも……あの時の面影はどこにも!」

 そう……目を疑う程の変化……ミルドには見えない!レンガ造りの家々……舗装されていない土が剥き出しの道……そして、溢れんばかりの自然や美しい小川のせせらぎが聞こえていた村の姿はどこにも無い。今見えるのは、薄汚れた石畳の道と煙を噴き出す家々……そして、黒煙を出す工場……恐らく、200年前に鉱山として生計を立てていたこの村は成長して金属加工を主として行っているのだろう。その証拠に、家の屋根……扉、窓、外壁にいたるまで薄い金属で覆われている。それが、ススで汚れているのだ。目を開けると痛い程の有害な空気……金属を熱する火の熱気……この村はそれに支配されていた。

「丘へ向かおう……変わっていない場所が必ずあるはずだ!」

 私は、この場を離れる為にシェルフィアの手を取った。その手は震えていた。寒いわけじゃない。不安なんだ。

 丘へ向かう道……村の中心を離れて私達は急いだ。鉱山から離れていくので、民家や工場は減ってきたがまだ昔の影は無い。

「フィーネの家もありませんね」

 シェルフィアは、かつての自分の家の場所を見つけた時そう呟いて落胆していた。やはり、故郷の姿は変わってもわかるものなんだ。

「大丈夫だ……この先必ず!」

 私はまるで自分に言い聞かせるようにシェルフィアに言った。200年という年月の長さを噛み締めながら……

「あれは!?」

 二人とも黙って歩いていくと、初めて見覚えのあるものを見つけた!

「シェルフィア!」

 私は走っていく彼女を追いかけた。そして、立ち止まった先には……

「フィーネのお父さんとお母さんの」

 墓だった。辛い世界で、フィーネを愛し育んできたご両親の……私は、ここでフィーネの強さを感じたんだ。

「……はい、ここに来ると、鮮明に思い出します。グスッ……フィーネは、こんな辛い思いをしたのに旅に出ようと決心したんですね。まるで、胸が焼かれそうです。私は、フィーネ程強くない。でも、私の心にはフィーネがいる。おかしいですよね?」

 シェルフィアは……フィーネの心と葛藤している。私にはそれが痛い程わかった。彼女をフィーネだと感じる時と、シェルフィアだと感じる瞬間……それが繰り返される。彼女の心は不安定なままなんだ。私は、この先に不安を感じた……約束の場所でシェルフィアの心が壊れてしまったら!?私は、いつの間にか俯いて青褪めた顔をしていたのだろう。

「ルナさん!行きましょう!私は大丈夫です!」

 シェルフィアは叫んだ。シェルフィアも同様に強い心の持ち主だ……私はそう感じた。立ち止まっては行けないんだ!

「……丘はもうすぐだ!約束の時が訪れる。何も心配はいらないよな!」

 私は前をじっと見据えた。シェルフィアもそれに続く……そして!

 

「ミルドの丘」

 

 私達は呟いた。何と、ここだけはかつての姿を残したままだったのだ!唯一変わっていたのは、私が堕天した時に出来た穴……そこに立派な大木が立っていたぐらいだった。落陽に照らされる村の美しさは変わらない。レンガの家が鉄に変わろうと……工場が煙を出そうと……そこに住まう『人間』達の生きる美しさは変わらないんだ。

 とても懐かしかった。ここから全てが始まったんだ。私達の絆……旅が……そして、心が……

 胸がいっぱいだった。この丘は私達の幸せの象徴にするはずだったんだ。

 でも、あの時その願いが果たされる事は無かった。

 それでも200年……私達は心を失わず、再びこの場所に来た!

 約束の場所へ!

「フィーネ」

 私は、また涙を流した。200年前の深い深い愛が込み上げて、理由もわからずに目から雫が溢れるんだ!

「……ル……ナさん!?あぁぁ!私が壊れそう!」

 私が『フィーネ』と呼びかけた瞬間!シェルフィアに異変が現れた!

「大丈夫だ!私はここにいる!だから……だから安心して帰っておいで!過去を拒まずに……新しい未来を作る為に!」

 私は迷わない!不安もない!私は『永遠』を信じる!心を!そして、君を!

 私は、シェルフィアを優しく……そして強く抱き締めた!私達の心は何があっても離れたりはしない!

 

 すると、シェルフィアの頭の中に響く声が私の頭にも響いてきた!

 

『……私は、ルナさんが大好きです。世界中で誰よりも!ルナさんは、優しさをいっぱいくれたから……私は、ルナさんが傍にいてくれるだけで、温かい気持ちでいっぱいになるんです。強い心を持ち続けられるんです!ミルドの丘から全てが始まりましたね。初めは、ルナさんの事が怖かったけど、今は大好きです。私は、あなたといるだけで幸せな気持ちが溢れてくるんです!』

 

『……ありがとう、フィーネ。私は、他人の為に一生懸命頑張って……懸命に生きて……それでも優しさを人に分けられる。そんなフィーネの方が、私なんかよりずっと素晴らしいよ……君がいたから、私は変わった。君がいたから戦う決意をしたんだ!君は私に無い物をたくさん持っていて……君が私に心をくれたんだ。だから……私はずっと君を守る。これから先ずっと……何があっても……私もフィーネを愛してるから』

 

『……ルナさん、きっと……私の為に涙を流してくれてるんですね。私も……あなたと過ごした事……考えたら……やっぱり泣けてきますよ……もっと一緒に生きて……今まで以上の幸せがあったんじゃないかって……戦いも終わって……一緒に暮らして……ルナさんの子供を生んで……でも、それは叶わない事……贅沢過ぎる夢』

 

『……俺は、命をかけて……100年でも、1000年でも、一生をかけてでも君の……いや、フィーネの『魂』を見つけ出すから!』

 

『……あなたが迎えに来てくれる日まで……それまで……私は、あなたを愛し続けて待ってます。私の……ルナさんへの想いは永遠に……あなたに出会えて本当に良かった』

 

「永遠の心は……どんなものよりも強く……幸せな未来を
創り出す為にあるんだ!」

 

 私は、声を限りに叫んだ!悲しみはもう十分だ……ここから新しい幸せな明日へ歩み出す……その為に私達はここにいる!

 

「ルナさぁぁーん!」

 

 シェルフィアは私の胸に倒れこんだ。精神力が限界を超えたんだろう。でも、私の心に不安は無い。心を信じているからだ。目覚めたら伝える言葉があるんだ。

 

 

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