【第三節 交錯する記憶と存在】

 

 ここは何処?私は、誰?

 見渡す限り闇……その中で私は一人歩いている。いや、歩いているというよりも空間に浮きながら前に進んでいるというべきだろうか?そんな事は今の私にはどうでもいい事……私は、私じゃないのだから……

 私は、『シェルフィア』のはず……なのに、どうしても心がもう一つあるような気がする。

 闇の中を一体どれくらい歩いたかわからない。それでも歩き続けていると、微かに光の破片が浮かんでいるのを見つけた。

「これは何?」

 光の破片に私の指先が触れる。すると!

 

「……化け物……ルナさん、あなたも魔物なんですか!?」

 

 私の脳裏に見たことも無い光景と声が現れた!どこかの洞窟のような場所で、ルナリートさんに向かって叫んでいる?頭が痛い……ルナリートさんとはさっき会ったのが初めてなのに!?

 私は、光の消えた闇の中を再び歩き出した。すると、今度は急に闇が晴れて夕焼けの丘に変わった。

 その丘に『私?』は立っている。一体何をしようとしてるんだろう?

 

「……私が、魔物を全て倒しに行くんです!私から全てを奪った魔物を!」

 

 何故だろう?そう叫んでいる『私』……いや、『もう一人の私』の悲壮な決意が伝わってくる。お父さんもお母さんも、魔物によって殺されたんだ。それで、ルナリートさんに戦ってくれるように頼んだ。

 そう……優しいルナリートさんは、私のわがままを聞いてくれて……一緒に旅をする事が出来たんだ。

 

 もう一人の私……その名は『フィーネ』……私の心のもう一人の住人……でも、あなたは私に過去を見せるだけなの?

 

「……例え脆くても……この素晴らしい世界に生を受けて、たくさんの人に恵まれて一生懸命生きることはきっと幸せなんです」

 

 フィーネ、あなたは両親が殺されても……魔物に虐げられてもこの世界が素晴らしいと言う。しかも、両親の墓前で……

 

『私は強くない。唯、私を大切にしてくれた人がいたから。お父さんやお母さん、そして、ルナさん』

 

 驚いた!今まで19年間……何度と無く、フィーネの夢は見てきた。でも、でも!フィーネ本人が話してきたのは初めてだった!

「……私はシェルフィア。どうして、あなたは私の心の中にいるの!?」

 周りの風景が闇に戻り、フィーネの姿だけが私の方を見ていた。

『……私は、200年前に死んだ。……でも、ルナさんのお陰でシェルフィアとして生まれ変わったの』

 フィーネは、悲しそうな顔をして私の目を見つめる。

「シェルフィアは私よ!私はあなたのものじゃない!」

 私は叫んだ!私の心は私のものなんだ!

『そう、だから……あなたも私もフィーネでありシェルフィアなの。本来……人の魂は生まれ変わると、全ての記憶を失う。でも、私はルナさんと約束した。だから、シェルフィアとして生まれ変わっても……フィーネとしての心も消えていないの』

 フィーネは微笑んだ。嘘偽りの無い表情……でも、そんな事は信じられない!

「私は私なの!フィーネなんかじゃない!私の心から出て行って!」

 私は、フィーネを力の限り押そうとした。しかし!

『フィーネを拒めば……シェルフィアも消えるわ。私達の心は二つで一つ。その為に、今からあなたに私の全てを見せる』

 フィーネがそう言うと、私の体の中に入ってきた!

 

「あぁぁ!」

 

 頭が痛い!体中が熱い!……苦しい!意識が混濁する!

 

 ……混ざり合った意識の中で、フィーネの記憶の映像が鮮明に流れてきた。記憶だけでなく、心の動きも全て感じられる。

「どうして……どうして争いは無くならないの!?なぜ殺しあわなくちゃいけないの!?……私はどうすればいいんですか!?」

 ここは、魔物によって廃墟と化した村……そこで、『私』は無意味な争いを嘆いているんだ。

「……君はよくやっているよ。今は……争いが無くならないのは仕方ないんだ。でも、それを少しでも無くすために私達はここにいるんだろ?」

 あなたは!ルナリートさん、いえ、ルナさん!嘆く私を優しく慰めてくれましたね。それが、すごく心強かったんです。ルナさんの事を少しずつ思い出していくと……私の心はどんどん満たされていきます。

 

 色んな事がありました。行く街で祝宴をやってもらったり、私の作った『辛いトースト』を美味しいって食べてくれたりもしましたね。

 ルナさん、ずっとあなたと一緒に過ごして……私の心はどんどん温かくなっていったんです。

 そして、あなたを助けたい一心で飛び込んだリウォルタワー……私は剣で胸を貫かれて、やっと正直な気持ちを言えたんです。

 

「ルナさん、あなたが大好きです」

 

 そうだ……私は今でもルナさんが大好きなんだ。シェルフィアとしての私がルナさんに、恋しようとしたのも偶然なんかじゃない。

 私は、フィーネであり、シェルフィア。でも、まだ完全に一つにはなれない。

 今まで生きてきたシェルフィアが、フィーネとしての心を受け入れる事をまだすこし拒んでいるから……

 今までの自分が無くなりそうで恐い……

 でも!拒んでも、昔の記憶と心がどんどん蘇ってくる!

 ルナさんと過ごした日々が……そして、『約束』が!

 

「私もフィーネを愛してる」

 

 ルナさんがそう言ってくれた時、私は人生で一番幸せだった!大好きなあなたと心を通じ合わせる事が出来たから!でも、人間の私と天使のあなたの一生の長さは違う……それで私が困らせると、あなたは優しい約束をしてくれました。

 

「……フィーネ、心配しなくていいんだよ。もし、肉体が死んでしまったとしても『魂』は不滅なんだ。だから、二人で一生懸命生きて……どちらかの体が消えてしまったら、『魂』を探す旅に出ればいいんだ。空にある数多の星の中から、一つを選び出すくらい難しいけど、私は絶対に見つけ出せる。その時、きっとフィーネは寂しそうに私を待ってくれているはずだから……何度でも、何度でも私はフィーネを見つけるよ……それで、生まれ変わってもずっと一緒に生きるんだ。『永遠』に」

 

 ルナさんは、私を抱き締めて頭を撫でてくれながらそう言いました。

 

「……グスン……ふふ……わかりました。それなら、私も……絶対にルナさんを見つけます。ルナさんは、いつまでも私を優しい目で待ってくれているはずだから……でも、魂が離れ離れになった時に集まる場所を決めた方がいいですね」

 

 私もルナさんを信じてこう言ったんです。

 でも魂が離れてしまったから、その場所に私は行かないといけませんね……あなたと一緒に……

 

「……フィーネ!君は……俺に……本当の『心』をくれたんだ!『心』は温かくて……包み込んでくれる。『心』は溢れ出して……優しさとか……強さとか……大好きな気持ちに変わるんだ!……フィーネが俺を愛してくれているように……俺も君を誰より愛してるよ……『心』から……そして君は……『永遠』を信じてくれているから……俺は、『永遠の心』を信じる!……俺の『心』も……フィーネの『心』も……『永遠』なんだ。信じる心も……愛する心も!……何度死んだって……何度生まれ変わったって失いはしない。『永遠の心』を持って、何処にいても必ず迎えに行くよ……だから……安心しておやすみ」

 

 私がフィーネだった頃に聞いたルナさんとの約束……『永遠の約束』……私は信じて生まれ変わりました。

 あなたが……私の魂を救い出してくれたから……魔物の世界で命を懸けて……ありがとうございます。

 そして、200年間辛い思いをさせてごめんなさい……

 

「……『永遠の心』……信じます。あなたと過ごした日々も……愛する心も全部『永遠』に……忘れません。でも、寂しいから……早く迎えに来てくださいね……もし……私が『心』を失いそうになっていたら……『約束の場所』へ連れて行って下さい……行きたかったあの場所へ」

 

『永遠の心』……それを大切に抱えて、私はシェルフィアに
なったんです。

 

 私は、フィーネでありシェルフィア。でも、『心』がまだ
不安定……

 

 だからルナさん、連れて行って下さい……

 

 フィーネとしての私の故郷……

 

 ルナさんと初めて会った場所……

 

 そして、何より『永遠の約束』の場所へ……

 

 それで、私の心が一つになって目が覚めたら……

 

 あなたの優しい笑顔で『おはよう』って言って下さいね……

 

 その後で、200年前に約束した通りに幸せになりましょうね……

 

 ……絶対ですよ。

 

 

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