〜感謝の街〜

 私と、フィーネが宿から出ると擦れ違う人々全てに感謝の言葉とお辞儀をされた。この街で私達はやはり英雄扱いだった。しかし、私達は次の目的地へと向かうべく、食糧の買出しをするために食料品店へと向かった。

「お代は要らないから、何でも好きな物を持っていってくれ!」

 店に入った瞬間店の主人にそう言われた。30半ばであろう主人はとても嬉しそうだった。

「いいよ。昨日の祝宴で十分私達は歓迎されたんだから」

 私は、流石に無料で食糧をもらうのには気が引けた。しかし……

「英雄から金を貰っちゃあ、家の店が街の人間に文句を言われるって!さぁ、持って行ってくれよ!」

 と、主人は袋に入るありったけの食糧を私達に渡した。

「あ、ありがとうございます!」

 と、フィーネは申し訳無さそうにその袋を受け取った。

「また、この街に寄ったら俺の店に来てくれよ!歓迎するぜ!」

 と、主人は威勢良く言った。

「あぁ、また寄らせて貰うよ」

 と、名残惜しそうな主人を背に私達は店を出た。そして、ルトネックの村へ向かうべく船着場へと向かっていった。

 その途中で、昨日の若者に再び出会った。

「昨日は本当にお世話になりました!」

 毒に侵され、大怪我をして、私達を歓迎した青年だ。

「もういいよ。昨日で、十分感謝は受け取ったから」

 私は、尚も礼を尽くすこの青年に少し申し訳ない気持ちを持った。

「いいえ!幾らお礼をしても足りません!これを持って行って下さい!」

 と、その言葉と共に光る物を差し出された。

「これは?」

「この街の宝です。街の人を代表して、俺が持ってきました!」

 見ると、プラチナだろうか。プラチナにダイヤモンドが散りばめられたネックレスだった。天界でも、このクラスの品はなかなか手に入らない。

「いいですよ!こんな高価な品物は受け取れません!」

 と、フィーネは青褪めた顔で首を横に振った。その様子から、このネックレスの希少価値の高さがわかる。

「いいんです。あなた達がいなければ、この街は死んでいました。そのせめてものお礼なんです!」

 と、若者は必死に渡そうとする。恐らく、街人みんなの願いなのだろう。

「わかった。受け取らせてもらうよ。ありがとうと、みんなに伝えておいてくれ」

 と、私はそう言ってネックレスを受け取った。

「はい!本当にありがとうございました!」

 と、若者は何度も振り返って頭を下げながら去っていった。

「フィーネ、せっかくだからこれは君が付けておけよ」

 と私はそれをフィーネの首に優しく着けた。

「そ……そんな素晴らしいものは私には似合いませんよ!」

 フィーネは、それをすぐに外そうとしたが……

「よく似合ってると思うぞ」

 と、私が言うと顔を朱に染めて黙って頷いた。

 そして、私達はルトネック行きの船に乗った。無論、代金は取られなかった。

 

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