その直後の事だった!

「ギャァァ!」

 扉の向こう……遠くの方で、断末魔の悲鳴が聞こえた!この声は衛兵の声だ!

「魔なのー!?」

 リバレスが、その声を聞いて叫んだ!私とハルメスさんは、瞬時に剣を抜いた!

「いや!魔は結界に阻まれる!まさか!」

 扉の向こうで、恐ろしい力が集約されているのを私達は感じた!その瞬間!

「パキィィーン!」

 数十本もの氷の刃が扉と壁を切り裂いた!これは……中級神術『天導氷』!

 フィーネを庇いながら、氷の刃を避けた私は攻撃が来た方向を睨み付ける!

 すると……破壊の後に出た砂埃の中から、よく知る人影が現れたのだ!

 

「お前は……ジュディア!」

 

 崩れた壁とドアの向こうに立っている者……それは、天使ジュディアだったのだ!

「……久し振りね……ルナ、そして、ハルメスさん、いいえ、堕天使ハルメス!」

 腰まで届く程の金の髪……そして、完璧過ぎるまでに整った顔は私の方を見ていた。

「ジュディア!一体何のつもりだ!?」

 危険な空気を察知したハルメスさんが叫ぶ!しかし……

「堕天使ハルメス!あなたに用は無いの!引っ込んでなさい!」

 ジュディアがそう言った瞬間、ハルメスさんは5m程遠くにあった壁に叩きつけられた!しかも、ハルメスさんは何故か動けない!

 そんな神術を使いこなすなんて……この短期間で、どれだけ成長したんだ!?

「ジュディアー!争いはやめましょーよー!」

 リバレスも見兼ねてそこに割って入った。

「リバレス!あなたは、ルナの天翼獣なのに何故!?」

 ジュディアは、途中まで言いかけてリバレスを弾き飛ばした!リバレスは床にぶつかり、動けなくなった!

「やめろ!ジュディア!お前は私に用があるんだろ!?」

 私はジュディアの前に立ち塞がった。だが……彼女の力は天界の頃の数倍いや、それ以上に膨れ上がっている!

「ルナ、可哀想に!こんな人間の女に毒されて!」

 ジュディアは、フィーネの方を睨んでそう言った。私は、フィーネを守る為にジュディアに剣を向ける!

「待て!フィーネに手を出すな!」

 私はフィーネとジュディアの間に入り、精神力を剣に集中した。最悪の場合ジュディアを斬る覚悟で!

「ルナ!まさかあなたは……こんな女に!?でも、無駄よ!今の私は、お母さんの力を完全に受け継いだ。神術で私に敵う者はいない!」

 その言葉の直後に、私の体は動かなくなった!これは、高等神術『拘束』!呼吸すら苦しい!

「ルナさんっ!ルナさん!」

 その場に倒れこんだ私を、フィーネは必死に抱き起こす……

「……フィーネ、逃げろ……頼む」

 私は息も絶え絶えにそう呟いた。このままではフィーネが!

「嫌です!ルナさんを置いてなんて行けませんよ!」

 フィーネは、私の胸に泣きついた。でも、私は動けないんだよ。

「この女!ルナの心を奪い……毒した!……絶対に許さない!」

 ジュディアの目が殺意を持った、氷のような目に変わった!

「ジュ……ディア……殺すなら、私を殺せ!」

 私は、必死に声を振り絞った。ジュディアの耳に聞こえるように!

「……そんなにも……あなたの心は毒に侵されたのね。……私は、1000年前からずっとあなただけを愛してきたのに!あなたが望めば、私の美しい顔も体も心もあなたの物になるのに!非の打ち所の無い私をあなたは捨てたのよ!」

 ジュディアは、一筋の涙を流した。だが、その目は再び凍てつく氷に変わる!

「……まぁいいわ。あなたを改心させればいいだけの事!あなたに見せてあげる。下等な人間に情を持ち……救おうとする愚行の代償を!……『輝水晶の遺跡』で待っているわ」

 ジュディアは、不気味な笑みを浮かべてフィーネを抱えた!

「ルナさん!ルナさんっ!」

 フィーネは、手足をバタつかせるが逃れられない!そんなフィーネを無視して、ジュディアは神殿の外壁に穴を開けた!

 そこから飛び去る気なのだろう!

 

「フィーネー!」

 

 

 私の叫びも虚しく……フィーネは空に消えていった。

 何故こんな事に……せっかく幸せを掴んだばかりだったのに……

 守ると約束したのに……ずっと一緒に生きて行こうと……

 私は、『拘束』が解けるまで……悔しくて……歯痒くて……悲しくて……ずっと下唇を噛んでいた。

 絶対に助ける。例え、私の命が失われようとも……何を犠牲にしても構わない。

 約束したんだ。二人で幸せになると……ミルドの丘に戻ろうと……

 私はフィーネを愛している。初めて、自分よりも大切な人だと思えたんだ。

 

『私は永遠を信じる!』

 

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