〜リウォルパレード〜

 時刻は午後6時。私達はリバレスと合流して、鉄神殿に集まった。外装だけでなく、内装の柱や彫刻に至るまで全て鉄で出来た神殿だ。その技術力は、天界の住人である私までも目を見張るものがある。

「さぁ、皆の者!リウォルパレードの始まりだ!」

 街の長の掛け声と共に、神殿中央の天井からぶら下がっていたクス球が割れて文字が現れた。

『胸に刻もうこの時を!我々は語り継ごう!
英雄ルナリートの名を!』

 私の名は、宿の名簿で調べたらしい。そんな大袈裟な謳い文句と共に盛大な祝宴は始まった。私とフィーネは、色鮮やかな花で飾られた滑車のついた台座に座らされて街の人間に囲まれながら、街中を練り歩いた。

「ふふふ……こんなに盛大に祝ってくれて嬉しいですね。まるで、私達二人をお祝いしてくれてるみたいです」

 隣の台座に座るフィーネは少し恥ずかしそうに、私の膝を叩いた。

「あぁ。本当だな。いい思い出になりそうだ」

 フィーネは、昨日買った花嫁のような白いドレスに着替えていた。今日のこの時に是非、着たかったらしい。

 私達は、街の人々が喜びに乱舞する中を通り抜けながら、祝杯を飲んだ。本当に、私達の結婚式を行っているみたいで少し照れくさかった。

「フィーネ、綺麗だよ」

 少し酒が回ったのか、私はそんな言葉を呟く……すると、フィーネも潤んだ目で私を見つめて返事をする。

「……ルナさん、愛してます」

 私達は、手を取って幸せな時間に浸っていた。リバレスは遠慮しているのか、始終言葉を挟まなかった。そして、私達は神殿の中に戻ってきた。

「ルナリートさん、そしてフィーネさん!あなたの像をこの神殿に作り、この街の守護神として代々崇拝して参ります!」

 街長が、その言葉を口にした時私は流石に遠慮したが、満場一致でそれが実行される事に決まった時には止める事が出来なかった。神殿にいる者も、街の中にいる者も皆楽しそうに酒を飲み、料理を食べ、踊りに没頭する。また、音楽隊の演奏も加わり、祝宴はますます熱を増していった。その光景は、人間達が短い一生を懸命に謳歌しているかのようで、激しいが……少し切なく感じる。

 そして、私に酒の飲み比べで挑んでくる者もいたが、私は無敗だった。だが、人間界の酒であれ樽一つ分も飲んだ私は流石に酔いが回る。

「人間もいいもんだな。あんなに楽しそうに笑ってる」

 私は、少し酔いを冷ますべく神殿の端の方に座っていた。ここには誰も来ない。

「そうねー……本当に人生を楽しんでるって感じよねー」

 私とリバレスは、天界では無かったその光景を見て楽しんでいた。フィーネはとっくに酔い潰れて、私の膝の上で眠っていた。

「天使は強い力と長い命を持ってるけど、こんなにも一つの事で幸せになれないからな……短い人生でも、これだけ笑えれば幸せだろうな」

 嬉しそうな寝顔を浮かべるフィーネの髪を、私はそっと撫でた。

「……ルナさん」

 夢の中でも、私を想ってくれてるんだな。私は嬉しくなった。

「まー、堕天は200年間だし、ずっとフィーネの傍にいてあげるんでしょー?」

 その様子を見たリバレスが私の横腹を突付く。

「ああ。私はフィーネとリバレスの3人で、ずっとやって行くつもりだよ」

 私は、リバレスの頭をポンポンと叩いた。

「ルナも変わったもんねー!?わたしってお邪魔虫じゃなーい?」

 その言葉の直後、彼女は嘘泣きのような顔をする。

「お前は、私がいないと生きていけないだろ?お前もずっと一緒だから、心配するなって」

 私が、そう言うと嘘泣きの顔は消えて、満面の笑みで飛んできて、私の肩に座った。

 街中の人々は、酔い潰れて我が家へと帰っていく……夜は深まり、星空の下を私は宿へと歩いていた。無論、フィーネを抱きかかえて。

 人間界に堕ちて、2週間と少し……楽しい思い出ばかりが蘇る。これが刑なら、願っても無いな……

 私は、フィーネをベッドに寝かせてから少しの間宿のバルコニーに一人で立っていた。

 神の存在を信じていなかった私が、神に願う……

 

 ずっと……この幸せが続きますように……

 

 そして、宝物の懐中時計も開いた。時刻は、午前2時38分……明日もきっと楽しいから、もう眠ろう。

 私の心は満たされていた。他に何も欲しい物は無かった。

 

 

 

 しかし、無情にも『運命の歯車』は、私の願いとは関係なく

進んでいく

 ゆっくり……ゆっくりと……

 

 

目次 第十二節