第二十二節 (こう)(げつ) A

 

「ガキィィ……ン!」

 リバレスのお陰で、「光膜」での防御が間に合った。私は扉の向こうを睨む。

「くくく……、遂にこの日が来ましたねぇ! 私の人生を砕いた愚者(ぐしゃ)に対し、破滅を(もたら)す時がぁぁ!」

 真っ白な頭、痩せこけた顔と体、狂気が滲み出た目元。奴は……

「元神官ハーツ、私はお前に用は無い。此処を通してくれないか?」

「私は神官ハーツ様だあぁ! 逆らう者は魂を砕かれるがいぃ!」

 私の声を上手く認識出来ていないらしい。精神の一部が破綻(はたん)しているのか? 何にせよ、通してくれそうに無い。私達は大理石とオリハルコンで出来た「間」に飛び込む。

「リバレス、シェルフィア、奴の神術は強力だ。だが油断せずに、『拘束』と『魂砕断』にさえ気を付ければ大丈夫だ!」

 二人は頷き、私から離れた。そして私達は、ハーツを三角形状に包囲する。

「全て消えるがいぃ!」

 光、熱、氷、そして魂砕断が奴の掌から放たれる! 私達はそれを打ち消し、躱した。

「昔よりも、力と殺意に満ちているな。ならば動きを止めてやる!」

 私は奴に向かって、「不動」を発動させた。だが奴は容易(たやす)くそれを避ける。

「甘いですねえぇ! 動きを止めるならこうしないと!」

 数百の「拘束」がリバレスを囲む! これでは避けられない。

「リバレス!」

「リバレスさんっ!」

 私達は、同時にリバレスに駆け寄ろうとしたが、彼女に制止された。

「あんまりわたしを見縊(みくび)らないでよねっ。究極神術『重圧環(じゅうあつかん)』!」

 かつて神官が、夜に外出した私達を捕らえるのに用いた神術だ。この環の中に居る者には、十倍もの重力が加わる。重圧環によって拘束は消え、ハーツは地に伏した。

「ぐうっ、体が重いぃ!」

「シェルフィア、今よ!」

「解りました。行きますよ!」

 二人が何をするのかは解らない。だが私は、いつでも動ける準備だけはしておく。

「究極神術『不動』!」

「うがあぁ!」

 シェルフィアがハーツを動けなくした。そしてリバレスが、雷の神術を連続で放つ!

「私は、神官ハーツ様だあぁ!」

 とっくに意識を失ってもいい筈なのに、ハーツは尚も叫び続ける。

「ハーツ、負けを認めるんだ。このまま攻撃を受け続ければ死ぬぞ!」

「私は、ダ・レ・ニ・モ、負けは、しなあぁいぃ!」

 不気味な甲高(かんだか)い絶叫。その直後、奴の体が真っ白に光る! 閃光は私達を呑みこみ、部屋中へと拡がった。

「ドォォ……ン!」

「キャァァ……!」

 爆音、続いてシェルフィアとリバレスの叫び! 一体何が起こった?

 閃光が消えて、初めて気付いた。自分が血塗(ちまみ)れになっている事に。ハーツは、自分の命と引き換えに、禁断神術「爆」を使ったのだ。これは、肉体と魂の全てを爆発させる神術。出血の割に、私の傷は深くない。全身を軽く火傷した程度だ。だが……

「シェルフィア、リバレス!」

 二人は倒れていた。火傷ではなく、爆風の衝撃で壁に叩きつけられたようだ。二人共全身打撲に、複数個所の骨折。私は直ぐに治癒を開始した。

「ハーツ……。お前は最後まで救えない奴だったな」

 私は、風に揺れるハーツの服の破片を見てそう呟いた。

 

 二人の治療には一時間程掛かり、それを終えると今度は私に眠気が襲って来た。疲労による、(あらが)いようの無い睡魔。私は眠りに落ちる。

 この先に待ち受けるものは何だろう? 平和、それとも戦争だろうか。唯一つ確かなのは、次に出会うのは『神』である私と兄さんの『父』だと言う事。

 其処で全てが始まり、全てが終わる。

 例えこの先に待つ運命が過酷だったとしても、私は立ち向かう。『永遠の心』を持って。

 君と創る未来の為に。そして、今を懸命に生きている者の為に。




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