第十九節 霹靂(へきれき) A

 

「セルファス、お前は……」

「……ジュディアがお前の恋人を殺した時、俺がその場に居たら、お前の術を、あいつの代わりに受けてやれたかも知れないって思ってたんだ。あいつは、本当に酷い事をしたな。許せないだろうが、俺が謝る。……済まない」

 セルファスは呼吸すら辛そうだ。奴の左手の指輪が煌く。そうか……

「お前達は結婚したんだな。だがお前が謝っても、私がジュディアを憎む心は消えない。もし私がジュディアを殺せば、お前は私を憎むだろう? ジュディアは、それ以上の事をフィーネにしたんだ。幸い彼女は戻って来て此処に居る。しかしこれから先、私が進む道で、彼女を傷付ける者、私の道を阻む者が居るなら、相手が誰であろうと倒す。お前が心からジュディアを愛するのならば、私達の前にあの女の姿を(さら)すんじゃない」

「確かに、ジュディアを殺されれば俺はお前を憎む。しかしあいつは神術と命の司官。お前達から逃げる事は出来ないんだ。……だから頼む、あいつを殺すのだけは止めてくれ。どうしても殺すと言うなら、俺を殺せ。俺にはその覚悟がある」

 セルファスはそう言うと、聖剣を自分の胸に当てた。何の躊躇いも感じさせない目。

「ルナさんっ、私はあなたの隣に居ます。だから、あの人を殺す必要なんてありません! 許せとまでは言わないけれど、私達と同じ悲しみを増やすのは……、苦しいです」

 何もかも見透かしたような、澄んだ瞳。全ての真理が其処にあるような気さえする。

「……解ったよ、君がそう言うならな。セルファス、私達は天界へ向かう。異論はあるか?」

「ルナ……、そしてシェルフィアさん、ありがとう。そして改めて済まない! ルナ、俺は動けないし行くんなら行けよ。お前が考えてる事なんだ、何か世界が変わるような重大な事なんだろ?」

「ああ、変えてみせる。今は、お前を友とは呼ばない。だが私が世界を変えられたら……、もう一度友に戻ろう」

「うおぉ……、ルナ! お前って奴は」

 フロアに響き渡る程の男泣き。こいつとは心の根底で結び付いている、そう思えてならない。私はシェルフィアとリバレスを促し、階段を上り始めた。

「やっぱり、セルファスはセルファスねー」

 先を飛ぶリバレスが笑う。私は苦笑を浮かべて頷いた。

 その後私は翼を開き、シェルフィアを抱えながら上層を目指した。十五時間程で塔の千階に着く。流石に全員疲労していたので、其処で食事を摂り仮眠する事にした。




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