【第十三節 永遠への協奏曲】

 

 セルファスを丁重に葬り、街の人々を神術により墓地に運び終えた。その間に、私は世界中の人々に対して避難場所に退避するよう指示を出す。これから始まる、『最後の戦い』の巻き添えにしない為だ。ジュディア、ウィッシュを始め多くの人々は悲しみに打ちひしがれて動けなかったが、リルフィの言葉で、今やるべき事に目を向けるようになった。

 

「今、悲しくてどうしようも無い事は解っています。でも、これ以上悲しみを増やしたらダメなんです。皆、愛する人の為に戦い、愛する人の為に命を落としました。今生きている人の命は、愛する人に守ってもらった命です」

 娘だから当然かもしれないが、まるでフィーネのような口振りだ。

 

 愛する者に守られた命、掛け替えの無い者を守る為、耐え難い悲嘆と恐怖の中でも、人々は懸命に動く。一時間とかからずに、全世界の人々の避難は完了した。

 

 後は、シェ・ファと戦うだけだ。私と、フィアレスの二人で。

 

 フィアレスが獄界から戻り、私を聖域に呼んだ。

 聖域に居るのはたった五人。私とシェルフィア、リルフィ、フィアレスとキュアだ。

 

 終焉へ向かう狂奏……

 止めて見せる。私とフィアレスは互いの目を見て頷いた。

 死してもなお、消えない愛を信じて戦う事。それが、私達二人が此処に存在する意味だ!

 

〜第一楽章『極術』〜

「(覚悟は出来たようだね。)」

「(ああ。)」

 意思の交換はそれだけで十分だった。後は如何に戦うかだ。

 シェルフィア、リルフィ、キュアは無言で私達を見詰めている。言葉を待っているのだ。

「今から私とフィアレスで『極術』を用いて、聖域を除いた地上の全てに結界を張る」

 フィアレスが頷き、言葉を繋ぐ。

「物理的な攻撃、神術、魔術を通さない結界だよ。シェ・ファに効果があるとは思えないけど、やらないよりはマシだ」

 シェ・ファは物理攻撃、神術、魔術のどれも通用しない。だが、私達とシェ・ファの戦いの余波ぐらいは防げる筈だ。

「極術って?」

 元々色白なシェルフィアが、一層顔を蒼白にして訊く。不安、心配、恐怖、それらが凝集された表情。

「極術は、神術と魔術を融合させた術だ。エファロードと、エファサタンが、同等の精神エネルギーを消費して作り出すもの。歴史上、極術が用いられた事は数える程しか無い」

「一番最近極術が使われたのは、20億年前。星を三界に分裂させた時だね」

 その言葉を聞き、キュアが叫びながらフィアレスに縋る。

「フィアレス様、そんな力を用いては貴方が!」

 同様に、今にも泣きそうな二人が私の目を食い入るように見る。

「大丈夫だよ、ね、ルナリート」

「あぁ。極術で消費する精神エネルギーは、神術や魔術と変わらない。変わるのは、融合した結果だ。例えば、神術の炎と魔術の炎が融合した場合、その炎は単独の炎の数十倍になる」

 多少疑っているようだが、とりあえず三人は少し落ち着いたように見える。

 

「時間が無い、早速結界だ」

「了解」

 

 私とフィアレスは剣を交叉させた。この星全体を包む程の結界。いくら極術であっても消耗する精神エネルギーは半端では無い。だが躊躇する暇も、他の選択肢もありはしない。もう覚悟は決めている。

 

「極術『結界』!」

 

 無色透明の厚い硝子のような結界が、聖域を中心に急速に広がっていく。

 十数秒。結界が完成したと同時に私達は剣を下ろし、地面に膝をついた。

「くっ、思ったよりも消耗が激しかったね」

「そうだな」

 平時なら、このまま眠る必要がある程の消耗だ。だが、こんなものは序章に過ぎない。さぁ、立ち上がろう。

「ルナさんっ!」

「パパ!」

 シェルフィアとリルフィが私の体をしっかり支えてくれる。本当に二人は心配性だな。

 私が心配をかけまいと二人を抱き締めると、無意識に自分が涙を流している事に気付いた。二人の顔は私の胸の中だから、泣き顔は見られていないだろうが、正直驚いた。

 何故私は泣いているのだろう?答は明快だ。

 

 この温かみを胸で感じられるのは、これで最後になるからだ。心が泣いている。愛する二人との離別を予期して……

 

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