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 十一月一日、緋月は土産が入った大きな袋を抱えて、二ヶ月振りに出社した。土産を配り、営業から溜まっている仕事について聞いた後、自分の席に座る。すると、直ぐに真が嬉しそうな笑みを浮かべながら緋月の背中を叩いた。

「どうだった? って訊かなくても解るぜ。お前のその顔を見ればな」

「流石だな。二ヶ月、迷惑を掛けた。今日からは、心機一転仕事に励むよ」

「そうしてくれ。今日は美味い飯でも食いに行こう」

「ああ、俺の奢りでな」

「そう言う事! 椿と悠大にも、今日はご馳走が食べられるって伝えてるぜ」

 言葉も無い。この男は、俺がちゃんと答を見付けて来ると確信していたんだ。それだけ信頼されているのは嬉しい事だ。

 俺は、今日からは仕事と並行して絵の勉強も始める。否、勉強と言うよりはひたすら絵を描くのだ。早く会社から帰れた日、週末、休みの日、絵が描ける時間は探せば沢山ある。コンクールにも応募する。俺が今まで生きて来て感じた事全てを絵に変えて。

 緋月は生き生きと毎日を送る。しっかり働き、時には遊び、時間の許す限り絵を描く。コンクールで落選しても、緋月はめげない。寧ろ、もっと絵にのめりこんだ。自分が伝えたいメッセージを絵の中に表現する事は難しい。だが、少しずつ緋月は自分の絵に自分自身を投影出来るようになった。

 そんな生活を三年続けた頃、緋月は小規模なコンクールでは大賞に選ばれるようになっていた。そのお陰で、緋月の会社が受注する仕事は更に増えた。会社は緋月を宣伝に使ったりはしていないのだが、広いようで狭い業界なので、瞬く間に噂が広まったのだ。

 会社の規模は年々大きくなる。緋月が入社してから六年が過ぎた現在では、従業員は百名を超えた。その中で、緋月と真はプロジェクトリーダーとして働いている。

 それから七年後、緋月はこの国の中で最高権威を持つ公募展の洋画部門で、大臣賞に決まった。異国の高峰に咲く花と、眼下に佇む遺跡を描いた絵によって。

 緋月が三十二歳になった秋の事である。

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