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 雪那が話を終える頃には、二人は家の最寄り駅に着いていた。緋月は、途中で口を挟む事無く真剣に彼女の話を聞いた。雪那が口を閉じてから暫くして、ようやく緋月は言葉を発する。

「雪那が本当にそんな夢を見て、それを実体験のように感じているのは解った。それで、夢を見始めたのはいつからだ?」

 考え込む仕草の緋月。考えてるって事は、私の話が嘘じゃ無いって信じるけど、そんな夢を見る事は、あくまで現実に起こり得る範疇だと思ってるのね。

「小学校より前かな。緋月に出会った後だと思う」

「やっぱりな。俺はこう思う。怒らないで聞いてくれ」

 現実的な話をするんだろう。解ってた、私の話が現実を大きく逸脱している事は。緋月はきっと、私の話を現実に当て嵌める。

「うん、話して」

 雪那は何処か諦めたような顔で、空を見詰めた。漆黒の中で瞬く糠(ぬか)星(ぼし)が目に飛び込む。

「夢は、現実と記憶を投影するものだ。雪那が見た夢に出て来るトワとケイは、まるで俺達みたいだろ。俺達二人が、雪那の夢の中に名前と姿を変えて出て来てるんだ。場所や環境は、雪那が今まで見たり想像したりしたものの影響だと思う」

 そうよね、私の夢が本当にあった話で、私がトワだったなんて普通に考えれば馬鹿げてる。でも私は覚えてるの。丘の上を吹き抜ける風を肌で感じた事も、緋月によく似たケイが私を抱き締めてくれた時の熱も!

 トワにとってのケイは、私にとっての緋月。夢を見た時から、緋月はケイなんだって思った。私と緋月は、トワとケイの生まれ変わりって言えば簡単かも知れない。でも、私が思うのはそんなに単純な事じゃ無い。

「私ね、『永遠』ってあると思うの」

 雪那の言葉で首を傾げる緋月。雪那の事は解ってあげたいが、どうしても彼は現実的にしか考えられないのだ。

「……人は死ねば、土に還るのにか?」

「そうよ。でもね、例え土に還ったとしても消えないものがあると思う。それは、この世界を巡っているものよ。上手く言えないけど、人も動物も植物も、死が終わりじゃ無い」

 雪那は何処か遠い場所を見詰めた。それは、目に見える場所では無く、触れる事も出来ない。感じる事でしか理解出来ない場所だ。

「私達は死の後に、私達の想像を超えた何かと結び合って、永遠に巡り続けるの」

 その何かが「永遠」そのもの。でもこれ以上緋月に言っても、解っては貰えないだろう。それでもいつか解ってくれる。だって、永遠は何処にでも存在するから。ううん、永遠はこの宇宙そのもの。私も緋月も、この星だって永遠の一部だ。誰もが、永遠の中に居る。唯それに気付かないだけ。

 永遠は、時も空間も越えて存在する。だからこそ私は、夢の中で昔を知る事が出来るのだろう。夢を見ている間だけは、私は「永遠」に触れられるのだ。

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