第十一節 耳語

 ルナがシェルフィアを連れてミルドに向かった晩、リバレスは城の屋上で一人、舞い散る雪を小さな掌に集めていた。彼女は確信する、二人が無事に「再会」出来た事を。

「ルナ、フィーネ。良かったわねー」

 集めた雪で彼女は顔を覆った。目から滲み出るものが、淡雪(あわゆき)に吸い取られる。

 彼女は寒さに身を震わせ、部屋に戻ろうと身を翻(ひるがえ)す。その時だった。城に戻る扉から、ハルメスが現れたのは。いつに無く真剣な顔。降り頻る雪には目もくれない。

「リバレス君、話がある」

「はい、何でしょう?」

 ハルメスさんが、わたしに話? ルナじゃ無くて。

「隣に座らせて貰うぜ」

 彼はそう言って、街が見える低い壁に腰掛けた。そして、真っ白な息を吐きながら、話を始める。

 話を要約するとこうだ。ルナとシェルフィアが、リウォルとの戦争を終わらせた後、私達は全員で「計画」阻止に向けて動く。そして、計画の実行日が間近になってから私達は二手に分かれる。ハルメスさんは、獄界からの侵攻を食い止め、わたし達三人は天界に行き「計画」を中止させるのだ。理に適った方法だ。二人で頷く。

 そして彼は、私の耳元で囁(ささや)いた。「ある話」を。

 その話は余りに衝撃的で、わたしは涙と震えが止まらなかった。ハルメスさんの悲壮なまでの覚悟、そしてわたしに起こる出来事……

 彼は言った。「自身の未来を選ぶ権利がある」と。でも、わたしは迷う必要が無いわ。

「ルナー……、きっとこれがわたしの『生まれた意味』なのよ」

 ハルメスが去った後に響いた彼女の声は、誰にも届く事無く、ひっそりと寒花に消えた。

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第十二節