第十二節 愚直

「そろそろ来る頃でしょうねぇ」

 ハーツは、自室の華美(かび)な掛け時計を見て笑みを浮かべた。時刻は午後三時十六分。

「コンコンコン」

 遠慮がちなノックの音。やはり、予想通り。お前達の考える事など全てお見通しだ。

「どうぞ」

「失礼します」

 ジュディア、セルファス、ノレッジ。来ると思っていた。お前達に時間を与える為に、わざわざ三時から五時までの授業を休講にしたのだから。まぁ、来なくてもこちらから迎えに行くつもりだったが。

「善良なる君達が、私に何の用です?」

「ハーツ様、大変失礼だと承知の上で申し上げます!」

 ジュディアが私の前に跪(ひざまず)く。セルファスとノレッジも同様だ。実に気分が良い。物事が自分の思う通りに動くというのは。

「ルナリート君の事ですか?」

 私は悲しみに曇った声と表情を演出する。

「その通りです!」

 ジュディアが続きを話そうとしたのを制止し、私は彼女達の目を誠意を持って見据える。

「彼を死なせたくないのでしょう?」

「はい! どうか、あいつを助けてやって下さい!」

「勿論無理にとは申しませんが、僕からもお願い致します」

 何故若者は、こうも単純なのだろう。思わず声を上げて笑い出しそうになるのを必死で堪える。

「場所を移しましょう」

 私は、「転送」で自分を含む全員を、「会議室」へ移動させた。この会議室は、二階の「東図書館」の一角に秘密裏に作られたもので、「転送」でしか入る事は出来ない。また、完全な防音で、どんな話をしても、誰にも聞こえない。部屋には大理石で出来た長方形のテーブルと、九つの椅子。本来は、私と親衛隊の会議で使うものだ。

「彼の命は、君達に係っています」

 私は、無能な三人に解り易く話す事にした。私の完璧な計画を。

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第十三節