前ページ

 それが、今の私の正直な気持ちだった。そんなに、苦しい思いに耐えるぐらいならば死ぬ方が簡単なのに……死んで生まれ変わればいいだろう。いや、天使と違って人間は生まれ変わる事は出来ないのか?天使ならば、そんな苦しみには耐えられずに生まれ変わる道を選ぶだろうに。私は、人間の考えがわからずにそう訊いたのだった。

 

「……例え脆くても……この素晴らしい世界に生を受けて、たくさんの人に恵まれて一生懸命生きることはきっと幸せなんです。だから……父も母も幸せだったと思います。二人は、私を育ててくれたし、家族には愛があって幸せだったから……でも、この世界にはそんな幸せを享受できない人々もいます。魔物によって……一片の幸せさえも奪いつくされる。私は魔物が絶対悪だとは言いません。だけど、人間の私から見るとやっぱり許せないんです!……出来るならば、全ての種族の共存を願います。けれど……最近の魔物は明らかに私達を皆殺しにしようと襲ってきます。年月を経る毎に魔物の勢いは増しています。でも、私は、大好きな父と母から生まれたから!……素晴らしい世界に生まれたから!そして……幸せでありたいから!私は生きるんです!」

 

 

 そう、フィーネは涙を拭いて力強く言った。この少女はすごい……私は本気でそう思った。いつ死ぬかもわからない、この世界をどうして素晴らしいと思える?何故たった一人の人間がこんな考えを持つことが出来る?どうして、こんなにも前向きに生きる事が出来る?そして、何故そんなにも自分や人を愛せるんだ!?私達天使はただ、言われるがままに生きてきただけなのに!

 リバレスも黙っていた。流石に、フィーネの考えに少しぐらいは驚いたんだろう。

 

「……お待たせしました。さぁ、行きましょう!」

 私達が驚いていたのも束の間、墓碑に花束を捧げたフィーネが私達に出発を促した。

 その顔はいつもの優しい顔だった。だが、私にはその顔が力強くも見えるようになった。

「あ……あぁ」

 私はフィーネの元気に気圧されて、間抜けな言葉を発してしまった。

 その後、リバレスが私の指輪に変化し、私達は船着場へと向かっていった。それは、次の目的地である『レニーの街』へと向かう為だ。途中、ミルドの村人達にフィーネは何度も捕まっていたが、いつもの笑顔で村人を安心させて私と共に船着場へと道を急いだ。私はというと、流石に黒の戦闘服を着て、大きな荷物を担いでいる上に、赤髪なので一際注目を集めていたが村人はそれどころではないのか、声をかけられる事は少なかった。そして、私達は船に乗ったのだった。丁度、しばらくして正午が近くなったので食事を摂る事にした。

次ページ