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 私は、この少女に助けられた。いくら人間といえども、魔の手にかかり無残に殺される姿を想像すれば、そう言葉を発せずにはいられなかったのだ。恩人がわざわざ、残虐に殺されるのを見過ごすことなど出来ない!

「いいえ!止めないで下さい!あなたの言う通りに、他人には頼らないんです!……私が動かないと何も変わらないし、何も変えられはしません!……止めるんなら、今ここで私を殺してください!」

 その言葉は……

「どこかで聞いたセリフねー」

 私が思うよりも前にリバレスが口を開いた。呆れ顔の彼女はきっとこう思っている。「ルナとそっくりな考えだわー」と……

 私も、そう思った。この少女は、優しく、意思の強い人間だとは思っていたが、まさかこれ程とは……

 人間も、私の様に自らの命をかけてまで自分の意思を貫く事が出来るのだ。私は正直驚いた。そして、私が天界で命を懸けたように、今ここで魔を倒すために命を懸けている少女がいる。私は、この時初めて人間、少なくともフィーネを見下していた自分を少し恥ずかしいと思った。

「仕方ない」

 私は、初級神術である『衝撃』を威力をセーブして放った。

「……カキンッ!」

 それは、フィーネのナイフに直撃し遠くへと弾き飛ばした。

 その瞬間、強い心で自分を支えていたフィーネは支えを失ったのか、その場に泣き崩れた。

「うぅ……あなたは、私から武器さえも奪うんですか!?……ぐすっ……それじゃあ、私は一体どうすればいいんですか!」

 いくら強い意志を持っているとはいえ、まだ年端もいかない少女。限界を超えたんだろう。私は、フィーネに対して優しさが心に溢れてくるのを感じた。

「……フィーネ、君は何でもすると言ったな」

 フィーネは泣き続けていたが、私の突然の優しい口調に驚いた様子だった。

「……私とリバレスが、この世界で何不自由なく暮らせるように、食料や情報、宿などを提供するんだ」

 私は、私と似た考えを持つこの少女を助けてやろうという気持ちになった。通常の私なら決して考えられない事なのに……魔と戦う……それはリスクが高い。しかし、天界で魔と戦う事は禁じられてはいない。そんな前提や、保身の考えよりも何よりフィーネという人間の心が気に入ったのだ。

「……そ……それじゃあ」

 フィーネは涙を拭いて、私に目を向けた。昨日と変わらぬ優しい目……

「……手伝ってやるから、もう馬鹿な真似はよすんだ」

「は……はいっ!」

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