前ページ

 彼女はさっきまでの穏やかな表情とは急変して、とても不安な顔になった。

「(獄界の低級魔だろうな……獄界の『魔』はこの『界』を占有するために、獄界から派遣されてくると学校で習った覚えがある。無駄だと思っていた天界での勉強も、満更捨てたものではないようだ。リバレス、私は人間に手を貸す気は無いが、この少女には恩を受けた。せめてもの代償に父親を無事にここまで送り届けてやろうと思うんだがどうだ?)」

 私はリバレスに意識で聞いてみた。

「(ルナがそうしたいんなら止めないわよーでも相変わらず甘いわねールナは!)」

 リバレスは皮肉めいてそう答えた。しかし、そこは長年の付き合い。リバレスは私の考えをわかっている。

「フィーネ、私が代わりに鉱山に行ってやろう。君の父親を連れて戻ってくる」

 そう言って私はベッドから起きあがった。体はほぼ完治している。堕天はしたが、私は天使だ。並の傷はすぐに治る。

「えっ!?悪いですよ!それに病み上がりのあなたじゃ危険です!」

 フィーネは驚いて私の前に立ちふさがった。その表情は真剣だ。

「心配するな。私は、『低級魔』如きにやられたりはしない。鉱山はどこなんだ?」

 私は、ベッドの横に置いてあった荷物から『オリハルコンの剣』を取り出して、実際には重いが軽く振っているように見せた。

「私の家から……南です。本当に大丈夫なんですか!?怪我もしてるのに!」

 彼女はなおも心配している。私の力を知らないのだから無理もないが。

「怪我はもう完治した。君のお父さんはすぐに見つけて戻ってくるから、ここで待ってるんだ」

 そう言って私は玄関のドアを開けた。寒い雨風がすぐに私を襲う。だが、この程度の冷気では私を冷やす事などできない。

「……わかりました。ルナさん!気をつけて!お願いします!」

 フィーネが不安気に私を見送るのを確認して、私は鉱山へと道を急いだのだった。

 

 


目次

第二節へ