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 私は体の状況を正直に話した。なぜ、こんなに全身に力が入らないんだろうか?傷は大して深くないはずだが……

「あ!きっとお腹が空いてるんですよ!今日の夕食は作り過ぎましたから食べてください!」

 少女は私の体調を見透かしたかのように、笑顔でそう言った。一体私の何がわかるというのだ?

「今、料理を温めてきますから少し待ってて下さいね!」

 彼女は楽しそうに、家の奥の恐らく……炊事場へと消えていった。図鑑で見ただけだから、わからないが……人間が料理するのは炊事場と書いてあったからだ。それよりも……

「(おい……リバレス!私はどうすればいいんだ!?)」

 私は困惑の表情を浮かべ、リバレスに意見を促した。

「(お好きなようにー。でも、これから人間界で暮らすんだから、利用しやすい人間を作るのはいい事じゃないのー?)」

 リバレスはこの状況を楽しんでいるかのような口調だった。自分は変化しているから、他人事だと思って……

「(まぁ、確かにお前の言う事にも一理ある。だが、下等な人間と馴れ合うのは苦痛だ……しかし、それにしてもなぜ人間の言語パターンが私達の言語と一致してるんだろうか?)」

 私はさっきから思っていた疑問を投げかけた。

「(そりゃー、人間も神から創られたからじゃないのー?でも、同じ言葉の方が過ごしやすいじゃない。)」

 つくづく呑気な奴だ。リバレスに難しい質問をした私が間違いだったな。

 

「出来ましたよ!料理には余り自信がないんですけど食べて下さい!」

 少女が帰ってきた。手に料理とやらを持って……これを私に食べろと……今までESGしか摂ったことの無い私に……

「……あ……あぁ」

 私は恐る恐る料理の乗った盆を受け取った。黄色をしたスープと呼ばれているらしい物。図鑑のパンとよく似た物体。さらに、植物や肉らしき物がソテーされている料理……図鑑で、恐ろしいと思った物達が今私の目の前にある。

「さぁ、遠慮せずにどうぞ!」

 少女は満面の笑みで私を見ている。心なしかリバレスも笑っているような気がする。

「(人間はこんな物でエネルギーの補給をするんだな。ESGが恋しい……しかし、私はESGを摂ってはならない。仕方ない!)」

 私は意を決してスプーンらしき物を手に取った。スープを一口、流し込む。すると!

「何だこれは!?」

 私はとても驚いた!こんな感覚初めてだ!口の中が幸福に染まる!この感覚は辞典で確か……『美味い』だったな!

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