前ページ

「……心配だなぁ、お父さん大丈夫かな!?」

「……ドーン!」

 落雷だ!フィーネは、窓から微かに見える『丘』に雷が落ちると同時に、眩しさと轟音に包まれ思わず目を閉じた。

 落雷を受けた丘……それは、ミルド村から少し離れた所にある『ミルドの丘』である。普段は美しい緑に包まれた、心安らぐ丘なのだが強い嵐の吹く今日は、闇夜に浮かび上がる魔物のように禍々しくさえ見える。少しの時間が過ぎた後、フィーネは瞳を開いた。

「……ミルドの丘に落ちたみたい……でもびっくりしたぁ!」

 彼女は雷の眩さと音に心底驚いた。しかし、それも束の間……彼女の胸には再び父への不安が訪れた。

「……もう、お父さんのバカ!せっかく頑張って料理を作ったのに冷めちゃったじゃない」

 フィーネは父へ怒りを抱いてみたが、それもまたすぐに心配で掻き消された。その時だった!

「あれ!?丘の上がおかしい!光ってる!」

 彼女は『ミルドの丘』の上に光り輝くものを見た。村人が持つ松明などの光とは全く異なった光……今まで見たことの無い光景だった。

「……もしかして……『魔物』!?」

 彼女は初めて見たものを魔物と認識してしまった。無理もない。その光は人間界には存在しないものなのだから。

「……どうしよう……もしかしたら、人が襲われてるのかもしれない!?……でもこんな時にお父さんはいないし」

 フィーネは考えた。しかし、心優しい彼女には決断の時間はそう必要ではなかった。

「……私に力はないけど、もしかしたら助けを求めてる人がいるかもしれない。行こう!」

 彼女はすぐに、身支度を整え始めた。今着ている服は紺色のワンピースで生地は厚手の綿だ。それを、腰の上でベルトを通している。その上に彼女は皮のコートを羽織った。外は強い雨と風。今の季節では暖炉の火がないと生きられない程に寒い。だから厚着をしないと、すぐに体熱を奪われてしまう。さらに、彼女は壁にかけてあった剣を手に取った。重い……その剣は細腕の彼女には辛い重さだったが、魔物に遭遇するかもしれない以上、武器は必要だ。そして、雨避けを付けた金属製の松明を持って家の外へと踏み出したのだった。

 

〜ミルドの丘〜

 話は戻るが、私はまだ先刻の衝撃で意識を失ったままでいた。ここから先、私が目覚めるまでの話はリバレスに聞いたものだ。天候は、空から落ちてきた時と同じ……ひどい嵐だった。視界は遮られ、風のせいで音も聞こえない。あれからしばらくの時間が経過して、私は気を失っているだけだと気付いたリバレスはある程度落ち着いていた。

次ページ