〜思い出の天使〜

 途中で走りつかれたフィーネをつかまえて、私達はフィグリルの神殿へと向かっていた。街の入り口から真っ直ぐに北へと進む。中央の噴水広場を抜けて、左右に規則正しく街灯が並ぶのを見ながら、私達は神殿の前まで来た。神殿の奥の方から、強い力を感じる。

「この中に天使がいる」

 私は独り言のように呟いた。すると、神殿の入り口の衛兵二人がゆっくりとこちらへ近付いてくる。

「失礼ですが……あなたは、もしやルナリート様ですか?」

 何故、私の名を知っている?と言いそうになったが、恐らく誰かが連絡しておいてくれたんだろうと思い直した。

「あぁ、私がルナリートだ」

 私が短くそう返事すると衛兵は顔を見合わせて私に深く礼をした。

「ルナリート様!神官がお待ちです」

 そう言われて、私達は衛兵の後ろに付いて行く。白い神殿の内部は……歩くべき所には赤い絨毯が敷かれてあり、壁には整然と燭台が並ぶ。さらに、大理石と思われる彫像が幾つも並んであった。神殿の上層部へと通じる階段は螺旋階段……本当に天界の建物に似ていた。

「ギィィ」

 そして……神官の待つ扉が、音を立てて開く……

「待っていたぞ……ルナ!」

 部屋の奥の椅子に座る神官……まさか!

「ハルメス……さんですか!?」

 私は、中年くらいに見える神官の傍まで一気に駆け出した!まだ自分の目を信じられなかったからだ。

「おぉ、ルナは大きくなったな。俺は正真正銘、ハルメスだぜ」

 私は、その言葉を聴いた瞬間……懐かしさに涙が溢れた。

「ハルメスさん、よくぞご無事で!」

 私は、大理石のテーブルの上で重ねているハルメスさんの手を握り締めた!

「おいおい、泣くなよ……でも懐かしいな。1000年振りの再会ってわけだ」

 少し年を取って見えたが、間違いなくハルメスさんそのものだった。耳が見えるくらいに切り揃えられた、銀の髪……そして蒼の瞳……

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