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「ルナさん、本当にありがとうございました!うぅ……さっき死ぬかもしれないと思った時は……本当は怖かったんです。目の前から光が消えて……だから……だから!」

 緊張の糸が切れたんだろう。死ぬ思いをしたんだ。私は子供のように泣きじゃくるフィーネを優しく抱き締めた。

「……私は、フィーネが無事にここにいてくれるだけで、何より幸せだよ」

 私はそんな言葉をかけながら、彼女の背中をさすっていた。そんな私達を気遣って、リバレスはそっとこの場を離れていった。

 

 フィーネが泣き止むまで……一体どれくらいの時間が流れたんだろう。それでも、さっきと何も変わらない夜空と湖は、私達を温かく包んでいた。こんな時が永遠に続けばいい……私は心の底からそう願う……

「……覚えていますか?」

 今は私の隣に座り、湖を見つめているフィーネが突然囁いた。栗色の長い髪が風にたなびいている。

「……君と過ごした日々で、私が忘れた事は何一つないよ」

 私も湖の方をボンヤリ見ながら、ゆっくりと返事をした。言葉の通り、私は全てを覚えている。

「……さっき言った言葉です。私が死にかけた時に」

 その言葉と共に、頬を赤く染めて私を見つめるフィーネの顔が穏やかな月の光に照らされた。

「……勿論、覚えてるよ」

 私も照れながら、真剣にフィーネの瞳を見つめた。自然と、お互いの手が重なり合った。

 優しさと強さと……純粋さと悲しみ……そして、私を想ってくれている潤んだ目が……じっと私の目を見ている。

 伝えようとしている言葉は……リウォルを出る時に言いかけた言葉……死の淵に立って私に伝えようとした言葉……

「……私は、ルナさんが大好きです。世界中で誰よりも!ルナさんは、優しさをいっぱいくれたから……私は、ルナさんが傍にいてくれるだけで、温かい気持ちでいっぱいになるんです。強い心を持ち続けられるんです!あなたは……天使様なのに……私なんかのわがままを何でも聞いてくれて……助けてくれて……怒ってくれて……ミルドの丘から全てが始まりましたね。初めは、ルナさんの事が怖かったけど、今は大好きです。私は、あなたといるだけで幸せな気持ちが溢れてくるんです!でも、私は人間……ルナさんは天使……私の恋は届かない事はわかってます。それに、ルナさんには天界で素敵な恋人がいるかもしれないし……それでも、私が初めて好きになった人だから……どうしても伝えたくて」

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